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“私があの道を通らなければよかった” 性暴力被害者は、なぜ自分を責めるのか…「実体験がモチーフ」前田敦子が引き受けた理由

三島由紀子監督x前田敦子対談

2024/02/09
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「前田さんは何かと交信できる人」監督が見た前田敦子

前田 れいこがレンタル彼氏のトトに、何があったかを話すシーンは、実際にその駐車場で撮影されました。撮影前に、監督と2人でお話しする中で、ここでこういうことがあった、あそこでこう思ったということを細かく教えてくれました。

三島 そのとき前田さんが一度、ハグしてくれたんですよね。そして手を繋いで、600mぐらい歩きながらずっと話していた。私も後日スタッフに言われて、思い出したのですが、無意識にそうしていたんでしょう。

前田 私も不思議と手を繋いでいたことは覚えていないんです。あの場所で、監督の顔を見ただけでもうすべてが伝わってくるようだったことははっきり覚えています。2人でコソコソ喋っていましたね(笑)。監督は淡々と状況を説明してくれて、れいこに落とし込む作業を一緒にやってもらっていたんだと思います。

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三島 私は演出をするとき、役者さんに演技をつけるのではなく、大阪の街の道を歩いていて横を自転車のおっちゃんが通ったり、風が吹いたりする、相手役に生まれた感情、そのすべてを感じていただいて、そのすべてのこととセッションしていただきたいんです。その感情の流れを、我々は繊細に寄り添って、つぶさに撮っていこうと決めていました。

前田 まるでドキュメンタリーを撮られているようでした。

『一月の声に歓びを刻め』より ©bouquet garni films

三島 だから前田さんをよく観察していたようなものなんですが、前田さんは「思考するシャーマン」ですね。普段からずっと思考を続けている人です。なおかつシャーマンであるというのは、つまり神様なのか、突き動かされる何かの力なのか、とにかく何かと交信できる人です(笑)。

前田 え~っ(笑)。シャーマンの自覚はありませんが、確かによく考えてはいます。わかってくださっているなあ。

 私は本当に過去のことを覚えていないんです。AKB48として14歳でデビューしてから、すごく感動したことはそのポイントごとに覚えている気はするんですが、細かい感情は覚えていない。だから過去の話がぜんぜんできないので、「あのとき、こうだったよね」と言われても、「ああそうなんだ」としか返せません。思い出が少ないタイプなんです。

三島 思い出が少ないタイプ! その言葉のチョイスが面白い(笑)。

前田 その場その場で考えていることがいっぱいあるので、新しいことを考えるために、過去のことをどんどんしまっているのか、なくしているのか……。

三島 捨てているんですね。今を生きている。

前田 そうですね。たどり着くところはすごく幸せな気がする。今が幸せだということで(笑)。