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「化け物が寝ている」近所を騒然とさせた、廃品回収業の男性の“不可解すぎる死体”

「化け物が寝ている」近所を騒然とさせた、廃品回収業の男性の“不可解すぎる死体”

2024/03/13

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, サイエンス

note

局部がえぐり取られたようになくなっていた

 肌寒い季節であったから、汚れたジャケツを重ねて着ているが、下半身はなぜか裸である。股を少し広げ、陰部はほぼ逆三角形にえぐり取られたように、陰茎も陰のうも睾丸もなくなっている。

 猟奇事件である。

 昭和十一年、世間を騒がせた阿部定事件以来のことであろう。このときは、料亭の女中定が、自分の主人吉蔵を扼殺し、外陰部を切り取り、死体の左内股に、“さだきち二人ぎり”と血で書き、左腕には刃物で“さだ”と自分の名を刻んで逃げた。

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 二日後、定は逮捕されたが、その時、彼女は切り取った男根を大事に持っていたという。この事件は当時から、興味本位に猟奇的に扱われてきた。

 しかし、医学的には二人はサディズムとマゾヒズムの関係にあったといわれている。異性を虐待し精神的・肉体的苦痛を与えることによって、性的快感を覚えるのがサディズムで、その逆がマゾヒズムである。

 男にサディズムの傾向が強いと、女は少なからずマゾヒズムに傾くといわれる。元来、女性は受動的であるからマゾヒストが多い。しかし、吉蔵と定の関係は逆で、吉蔵が強いマゾヒスト、定はサディストであったという。

©AFLO

 池さんの場合も、似たような背景が潜んでいるのであろうか。小屋の中は死体の腐敗臭が強烈で、まともに息もできない。ウジ虫の徘徊もあって、つばを吐き、ゲーゲーやっている刑事もいる。鑑識のカメラがフラッシュをたいたとき、小屋の隅にいた一匹の猫が驚いて逃げ出した。現場検証と並行して、私服刑事の聞き込みがすみやかに行われていた。

死体は語る (文春文庫 う 12-1)

死体は語る (文春文庫 う 12-1)

上野 正彦

文藝春秋

2001年10月10日 発売

「化け物が寝ている」近所を騒然とさせた、廃品回収業の男性の“不可解すぎる死体”

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