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全国の刑務所で“ぜんざい”が人気ナンバーワンのムショ飯「どんぶりサイズでマーガリンを添えて…」

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会

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分量や手順を暗記した

彼らは炊場のレシピを持ち帰ったり書き留めたりすることができない。それはルール違反になる。

だから、分量や手順を暗記し、部屋に帰ってからの自由時間にノートに書き留めるのだろう。

そこまでして作りたいと思ってくれるなんて栄養士冥利(みょうり)に尽きるじゃないか! と、パクリメニューでもうれしかった。

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娑婆にはもっとおいしいものがある

彼の仮釈放が近いことは髪の伸び具合でわかった。卒業が近くなると、髪を伸ばすことができるからだ。

それに、炊場から外され、卒業に向けてのカリキュラムが始まるため、彼と会える機会はもう少ないことを示していた。

「もうすぐ『イカフライレモン風味』が出るかなあ……」

とつぶやくと、彼はこう言ってほほ笑んだ。

「マジっすか? ちょっとしたクリスマスプレゼントですね」

季節は12月に入った頃だったと思う。その程度で喜んでくれるなんて、私もうれしくなってつられて笑ってしまった。

娑婆にはもっとおいしいものがある。ここを出たらいくらでも自由に食べられる。

刑務所での生活なんて彼らにとっては黒歴史だろうし、ましてやムショメシなんて思い出したくもないだろう。そう思っていたけど、違うのかも……。刑務所生活の中でも数少ないよい思い出として、彼らの印象に残るような給食を出したいと思った。

黒栁 桂子(くろやなぎ・けいこ)
管理栄養士
愛知県生まれ。管理栄養士、法務技官。老人施設や病院勤務を経て、病気の予防に興味をもつ。出産育児を機に料理教室や講演等の食育活動をスタート。10年間開催した「男の料理教室」ではのべ1000人の高齢男性に指導。初心者男性が料理を覚えて家族に喜ばれることにやりがいを感じる。刑務所の管理栄養士採用試験では30倍の狭き門を突破し、採用される。刑務所では制限が多いながらも「ワクワクする給食」をめざし、受刑者たちの「ウマかったっス」を聞くため、彼らとともに日々研究を重ねている。著書に『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)。
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