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小泉純一郎は東大卒エリート20人の質問攻めにどう答えたか

コイズミ教授の東大白熱教室170分・講義録 #1

2018/04/12
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郵政民営化を実現させるというビジョン

元東大生C 小泉政権と言えば、やはり郵政民営化ですが、あれはあらかじめいつまでに実現させるというビジョンがあったのでしょうか。

小泉 政権は何年続くかわからない。私は総理になった時からね、自民党の総裁任期いっぱいは一生懸命やって務め上げようと思った。だから、途中で引きずりおろそうとする勢力がいたら戦う。2001年4月に総裁になって、その9月に森喜朗さんから引き継いだ残りの任期が終わる。その前の7月、参院選で勝った。総裁選は無投票で再選になった。そして、2003年にも総裁選があったけど、勝利した。

衆院解散後、「郵政民営化が、本当に必要ないのか。賛成か反対かはっきりと国民に問いたい」と記者会見で表明した ©共同通信社

 そこで、「あと3年ある」と考えた。次の総裁選、私は自民党のルールで出られない。3年後には自民党総裁を辞めなければいけない。その任期まで私にしかできないのは、郵政民営化だと思った。郵政民営化は与野党いずれも反対、自民党から共産党まで国営維持を望んでいたんだ。なぜなら、特定郵便局長会は自民党支持、職員でつくる全逓信労働組合は社会党支持、全郵政労働組合は民社党支持だった。これらの全国組織が、選挙になると強力に動くんですよ。つまり、全国にある郵便局が政治的に全政党を押さえちゃっている。

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 1995年に私が初めて自民党総裁選に出馬した時、橋本龍太郎さんに敗れた。総理になった橋本さんが目指したのは行財政改革。民間にできることは民間にやれ。みんな賛成した。ところが、郵政だけは別にしたんだ。郵便局も民間にできるのに、民営化しない。郵政だけは例外。郵政官僚の天下り、無駄遣いはひどいのに、これだけは岩盤だった。

 それがずっと不思議でならなかったから、総理の時に郵政民営化をやろう、任期内に国民に聞いてみようと思った。郵政民営化法案をつくったけど、案の定、国会では反対する議員が多くて、参議院で否決されたよ。国会議員には反対されたけども、解散総選挙に打って出て、国民が支持してくれた。だから民営化できた。

 2005年夏の郵政選挙、勝っちゃったんだよ。印象的だったのは、投票日の夜に自民党が圧勝するのがわかったら、筑紫哲也さんとか、田原総一朗さんとか、テレビに出ているキャスターががっくりした様子なんだ。番記者たちもみんながっくりしている。なるほど、マスコミは野党に勝たせたかったんだなと思ったよ。

蒲島 なるほど。

郵政解散では、国民からの圧倒的支持を集めた ©文藝春秋

国民の支持があってこそ、総理の権力が生きてくる

小泉 たしかに、総理の権限は強いですよ。ただし、いかに強くても、民主主義においては国民の支持がないものはできないよ。総理の権限でなんでもできるというわけではないんだな。国民の支持があってこそ、総理の権力というのが生きてくる。民主主義の時代、独裁政権と違うんだ。総理の権限をどう使うか。それを判断するのは、総理の政治感覚だ。

蒲島 私、大学を離れて政治家になってわかったことがあるんだけど、小泉さんと同じ考え方をしているのが1つあります。それは、政治家を辞めるタイミングを常に考えていることです。細川ガラシャの「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」の心境ですね。

小泉 よくわかっているね。公のトップにいる時の緊張と重圧は、任期が決まっているから耐えることができるんだよ。世界にいる「永久政権の独裁者」はよくできるなと、俺は感心しているんだよ。

蒲島 ロシアのプーチン大統領はよく続きますよね。

小泉 日本の総理は、なった途端に批判だらけだから。俺なんか、国会で「人生いろいろ、社長もいろいろ、社員もいろいろ」と言っただけで、野党やマスコミに「ふざけたこと言うな」と言われたんだから。当たり前のことを言っただけなのになんでいけないんだ。俺は全然ふざけてないんだよ。

(「小泉純一郎が『東大ゼミ』で明かした、竹中起用と安倍後継を決めた理由」に続く)

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