小泉純一郎元首相の回想録『決断のとき』(集英社新書)が読まれている。2月の発売直後に重版、1か月余りで早くも3刷となった。政治家個人にフォーカスした書籍としては、久々のヒット作だろう。
同書を企画し、取材・構成を手掛けた筆者の元にも、様々な立場の読者たちから続々と反響が寄せられている。老若男女を問わず、ファンも、アンチも、小泉節がなぜか気になってしまい、なにかを語らずにはいられないようだ。政界引退から10年近くも経つのに、これほど毀誉褒貶が尽きない政治家は他に思いつかない。
あの「東大首席」コメンテーターの名も
1年以上に及んだ同書の編集作業が佳境を迎えた頃、筆者は小泉の書斎で1冊の本を手渡された。普段から「マスコミが書いた話はウソが多い」と言って憚らない元首相が、自らを描いた書籍を筆者に薦めてきたのは、それが最初で最後だった。
「この本、読んでよ。面白いよ。ビックリするほど、俺のこと調べている。大したもんだよ」
その名も、『小泉政権の研究』(木鐸社)。300ページを超えるハードカバーの大著である。編者は、「東大法・第7期蒲島郁夫ゼミ」とある。現在は熊本県知事を務める政治学者の蒲島氏が指導した名門ゼミの学生たちが手掛けた。その共同研究の成果が書籍として世に出たのは、蒲島氏が東大教授を退官し、知事に就任した2008年。息子の進次郎と同世代の学生たちは今や、30代になっている。
本をパラパラとめくる中、筆者の目ん玉が釘付けになったのは、巻末に書かれているゼミ生23人のその後の進路だった。
警察庁、みずほ銀行、日本経団連、日本政策投資銀行、文藝春秋、TBSテレビ、スクウェア・エニックス、住友信託銀行……。
森友問題のコメンテーターとして一世を風靡している「東大首席・元財務官僚・ハーバード卒弁護士」の名も見つけた。彼女は「小泉純一郎は私にとって、私の大学時代の一つの象徴となった」と感想を寄せている。
「よくぞ正確に書いてあるなあ」
小泉は昨年、熊本県知事の蒲島氏と会った際、突然その本の存在を知らされた。そして、プレゼントされた本を数日間で貪るように読破したのだという。
「俺に会ったこともないのに、よくぞ正確に書いてあるなあ」
気をよくした小泉は、その学生たちと会う決断をした。
会場は、東京都内のフランス料理店。偏差値が足りない浅学菲才の筆者は、そこで行われる「ゼミ」に潜ることを特別に許された。
元首相が自ら企画した、目がくらむほどの華麗な経歴を持つ東大卒エリートたちとの特別講義。その取材ノートを『決断のとき』をまだ読んでいない文春オンラインの読者とも共有したい。
(一部敬称略)