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子煩悩でおとなしい30代の男はなぜ連続性犯罪者になったのか? 根本にあった“元熱血教師”の父という存在

source : 提携メディア

genre : ニュース, 社会

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剛の犯行は、潜在的に、父親の支配から逃れるための復讐だったのではないだろうか。犯罪によって、家族を「加害者家族」にすることで、殺されるより過酷な状況に追い込もうとしたのだ。

剛は法廷では無表情だったが、筆者が拘置所で面会したときは、被害者に対して取り返しのつかないことをしてしまったと、泣きながら後悔の念を見せていた。

一方、妻子に対しては、

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「今後の生活費は父親がなんとかしてくれるでしょうから大丈夫でしょう。どうせ娘が成人するまでここを出られませんし、こんな父親はいないほうがいいと思います」

と、気に掛ける様子さえなかった。

剛は、妻子にとって自分は、いてもいなくてもいい存在だと思っていた。それゆえ妻子の存在は、犯行の抑止にはなり得なかったのである。

裁判を終えてようやく過ちに気がついた父親

「私の育て方が間違っていたことがよくわかりました……」

剛の父親は裁判を終えてようやく、暴力が与える精神的屈辱により、取り返しのつかない事態を招くこともあることを理解したようだった。

「ただ、憎くて殴ったことなんて一度もありません。犯罪者になっても、かわいい息子であることは今も変わりません……」

剛の父親のような男性は、昭和の時代には珍しくなかったかもしれない。目標達成のためには暴力で追い詰めることが必要で、男ならば耐えなければならないと思い込んでおり、成功体験からその価値観を疑うことはなかったのだろう。

いかなる状況においても、暴力は正当化されてはならない。数々の事件がそれを証明しているのだ。

阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。
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