東山紀之氏が今年2月、BBCによる単独インタビューに応じ、その内容を中心に「捕食者の影 ジャニーズ解体のその後」がBBCニュースで日本時間3月30日に放送された。昨年のBBC番組「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」で取材に当たったモビーン・アザー記者らは、再び日本を訪れ、この1年で何が変わり、何が変わらなかったのかを取材。番組を見ると、日本のメディアとの違いが浮かび上がってきた。(執筆:ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏)
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BBCにできることが、なぜ日本のメディアにはできないのか
2023年3月、ジャニー喜多川氏の性加害を告発するBBCのドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」がきっかけとなり、かつて“ジャニーズ帝国”とまで呼ばれた旧ジャニーズ事務所(現・SMILE-UP.)が性加害の事実を認めて解体的出直しを迫られた。その火付け役として同番組で取材したモビーン・アザー記者が再び来日してジャニーズ事務所のその後を追ったドキュメンタリー「捕食者の影 ジャニーズ解体のその後」が放送された。
番組から伝わってきたのは根本的に変わろうとしない日本社会に対して、アザー記者が抱いた大きな失望と苛立ちだった。BBCの続編が強調していたのは、旧ジャニーズの事件は「child abuse(児童虐待)」の事件であり、被害者1000人近くが名乗りを上げている「日本の歴史上でも最悪の出来事」だという点だ。
それにもかかわらず、日本では旧ジャニーズ事務所もメディアも一般の国民も、その重大性を本当にはわかっていないのではないか。旧ジャニーズ事務所はメディアを誘導するような“論点ずらし”を仕掛けている可能性があり、それが児童虐待の被害者たちをますます追いつめ、SNSでの誹謗中傷を助長しているのではないか。そんな批判的な姿勢が強い続編だった。
日本史上最悪の子どもへの性虐待。まず被害者のケアこそ最優先にすべきなのに、旧ジャニーズ事務所は本気で取り組んでいるようには見えない。社長が交替しても根本的な姿勢はあまり変わっていない。そのことがBBCの続報で明らかになった。
しかもそれを許しているのは、問題を深く追及しない日本のメディアではないだろうか。旧ジャニーズ問題で散々指摘されて反省したはずのテレビなどによる「メディアの沈黙」。現在もけっして解消されていない現状が浮き彫りになった。