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なぜ『ちゅらさん』は“伝説の朝ドラ”になったのか? 当時22歳の国仲涼子が「底抜けに明るくて単純」だった本当の意味

2024/04/26
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バランスのいい“家族”のキャスティング

 生き字引のおばぁは映画『ナビィの恋』(1999年)で注目された沖縄の俳優・平良とみが演じ、三線が得意な父を堺正章、やさしくあたたかい母・勝子を田中好子、ちょっと頼りない兄を沖縄出身のゴリ、思春期まっさかりの弟を当時新人でやはり沖縄生まれの山田孝之が演じるというバランスのいいキャスティング。堺と田中は国民的人気俳優で、ゴリ、山田、平良は地元枠かつフレッシュである。

えりぃの弟を演じた山田孝之は当時17歳(「NHKアーカイブス」サイトより)

 極めつけは、家族の愛に育まれのびのび生きるヒロインの国仲涼子である。最近は、大河ドラマ『光る君へ』や、他局の『厨房のありす』(日本テレビ)で、ヒロインの母親役を演じているが、23年前は2084人の応募者のなかから選ばれた期待の新人だった。1998年にデビューして4年目の大抜擢だ。

 当時の朝ドラヒロインは、明るく元気で爽やかで、顔はたぬき顔(いま、こういう例えもよくないのだろうけれど当時は当たり前にこんなふうに言われていた)で、輪郭は丸く、目も大きく丸い。びっくりした顔が似合う、ちょっとドジっ子みたいな感じが定番で、国仲涼子が演じるえりぃはぴったりであった。

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2001年、最も笑顔が印象的だった著名人に贈られる「ベスト・スマイル・オブ・ザ・イヤー」を受賞した当時22歳の国仲涼子 ©時事通信社

ヒロインのシンプルなキャラクターがドラマを引き立たせる

『ドラマ・ガイド』に掲載された榎戸崇泰チーフ・ディレクターはえりぃを「冬の太陽」と表している。夏のような派手な照りつけではなくて、冬のひだまりのようなほっこりあたたかい、猫が日向ぼっこするような陽光を注いでくれるようなイメージであろうか。一切の邪悪なものを笑顔でくるんでしまいそうな、洗濯物は日光消毒に限るというようなまじりっけのない明るさを照射できることがいかに貴重なことか。

 未見の方には申し訳ないが、ここで少しストーリーを明かすと、えりぃは高校を卒業すると東京に出ていく。それは、一度、外に出ることで沖縄の良さを実感したいという思いと、子供の頃、東京からやってきてしばらく沖縄で過ごした文也(小橋賢児)のことが忘れられないからだった。

 終盤、えりぃは看護師として沖縄に戻ることになるのだが、最初から大望を抱き、ひとかどの者になろうと息巻くこともなく、故郷を愛し、文也のお嫁さんになることを夢見ていただけという、よく言えば一途な、悪くいえばシンプルなキャラである。でも、彼女がシンプルな分、脇役たちの個性やそれぞれのドラマが引き立ち、半年間、飽きずに楽しく見られる。あくせくせず、停滞もせず、マイペースで生きることに一生懸命な人たちのきらめきが毎朝、元気をくれるのだ。