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世間では「棒演技」と見る声もあるが…朝ドラ『ブギウギ』草彅剛の「羽鳥善一」が主人公に見えてしまうワケ

世間では「棒演技」と見る声もあるが…朝ドラ『ブギウギ』草彅剛の「羽鳥善一」が主人公に見えてしまうワケ

2024/01/13
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 最初に謝っておきたいことがある。趣里さんにも笠置シヅ子さんにも他意はない。いや、趣里さんの演技はすばらしいし(映画『ほかげ』も打ちのめされました)、笠置シヅ子さんの『ジャングル・ブギー』が大好きだ。が、しかし、朝ドラこと連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)を見ながら、作曲家・服部良一をモデルにした羽鳥善一(草彅剛)が主役のドラマが見たくて、うずうずする心が収まらないのである。ほんとうにこの気持ちをどうしたらいいものか。

羽鳥善一を演じる、草彅剛さん ©文藝春秋

羽鳥主人公のドラマが見たくなる理由

『ブギウギ』は実在の歌手・笠置シヅ子をモデルにした福来スズ子(趣里)が地元・大阪を飛び出して、“ブギの女王”としてスター街道を駆け上がっていく物語である。

 その物語のなかで羽鳥はヒロインの相手役(夫や恋人)ですらない。朝ドラヒロインに欠かせないメンター的存在で、作曲家としてスズ子に『ラッパと娘』や『東京ブギウギ』を提供し、彼女の才能を伸ばしていくひじょうに重要な役割を担っている。

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 重要とはいえあくまでメンター的な存在。にもかかわらず、2024年の年明け最初の放送は羽鳥はじまりだった。だから余計に羽鳥主人公のドラマを見たい心が刺激されるのだ。まったくNHKもいけずである。

 戦争中、上海に渡っていた羽鳥は、日本軍が国策として開いた音楽会で、中国人作曲家・黎錦光(浩歌)が作った曲『夜来香』にアメリカのブギのリズムを忍ばせて、『夜来香ラプソディ』を編曲する。音楽会は大成功。だがほどなく日本は戦争に負けて、中国で日本人排斥運動が起きる。中国人から銃を突きつけられるという危険な目に遭いながら、なんとか日本に帰国した羽鳥は、敗戦で元気のなくなった日本人たちのために、明るいブギのリズムをもたらす。……と、こんなふうに書くといかにも『羽鳥善一物語』が進行しているようではないか。

羽鳥善一 NHK公式サイトより

『ブギウギ』はスズ子の一人称の物語ではないので、時々、ほかの人物の視点が入ってきてもおかしくはない。とはいえ、ドラマ全話の半分まで来て、いまだにスズ子には明確な意思がなく、羽鳥ばかりが確たる信念のもと行動しているため、どうも羽鳥の物語のように見えてしまう。

 羽鳥のモデルである作曲家・服部良一の物語が劇的で興味深いからさもありなん。上海のエピソードも実話に基づいたものである。そして、演じている草彅剛が主役クラスのスター俳優のため、どうしても目立ってしまうことが良し悪しだなあと感じる。