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「遺書書けよ」、スパナで殴打、財布を海へ捨てる……海上保安庁の新人男性(20)の“イジメ自殺”を第一発見者の元同僚が告発《「巡視船ひさまつ」の地獄》

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 新人が最初に担当するのは、船舶の出入港作業。

「佐藤は少し不器用なところがあり、船舶のロープを桟橋に結びつける巻き方や、錨を降ろす作業で手間取ったりしていました。すると、ミスをする度に『何やっているんだ馬鹿がっ!』とBから怒鳴られるようになりました」(A氏)

 イジメは、次第にエスカレートしていった。

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「お前、死んでくれんか? 俺の名前を遺書に書いていいからさ」

 同年5月下旬、「ひさまつ」は、山口県内のドックへ入港し、約1カ月の船体整備に入った。

「ペンキ塗りなど簡単な整備作業は、乗組員が担当します。作業中に佐藤がミスをしたのか、『この馬鹿やろうが!』とヘルメットの上から、スパナやゲンコツで殴られていたこともありました」(前出・海保関係者)

 事故に備えてヘルメットにガムテープを貼り、氏名と血液型をマジックで記入して作業にあたるというが、

「Bは佐藤のヘルメットの名前の部分に宮古島の方言で“大バカ者”を意味する『フスグドゥン』と書き込み、さらし者にして勤務させていました」(A氏)

 機関士のCからも陰湿なイジメを受けていたという。同年6月、佐藤さんのミスにこんな罵声が飛んだ。

「お前、死んでくれんか? 俺の名前を遺書に書いていいからさ、なぁ?」

 さらに、「馬鹿がうつるから直接話したくない」と、佐藤さんを無視しはじめ、必要な指示は他人を介してするようになった。

「佐藤は『新人をイジメて何が楽しいんですかね』と愚痴っていた」(A氏)

財布や電子タバコが入った佐藤のズボンと靴を海へ投げ捨てている姿がカメラに映っていた

 そして決定的な“事件”が起きる。6月下旬に寄港した那覇でのことだ。

「自由時間を過ごした乗組員たちが船に戻って来たのが午後10時頃。その後も食堂で、佐藤やBら4人で焼酎を2時間ぐらい飲んでいたら、酩酊した佐藤が吐いてしまった。僕は同じ船室なので、風呂で介抱した後に寝かしつけました」(A氏)

 翌朝、佐藤さんが慌てた様子でA氏に告げた。

「先輩、財布が無くなったんです!」

 他の乗組員の協力も仰ぎ、外国船籍との不慮の事態を想定して船内外に多数設置されたカメラも確認した。すると……。

「Bが甲板から、財布や電子タバコが入った佐藤のズボンと靴を海へ投げ捨てている姿がしっかり映っていたのです」(A氏)

海の警察と呼ばれる

 あまりの仕打ちに激怒したのはA氏だった。佐藤さんに「任務が終わったらすぐにパワハラを告発しよう」と持ちかけた。だが佐藤さんは「もう全てがどうでも良くなってきました」とひどく肩を落としていた。