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沢木耕太郎が綴る「山本周五郎との三度の出会い」

沢木耕太郎編「山本周五郎名品館」

2018/04/28

 山本周五郎とは三度出会ったことがある。

 といっても、山本周五郎と実際に会ったことがあるというのではない。山本周五郎は今から五十年前に死んでいるから、私はそのとき大学生にすぎず、まだ物書きの端くれにさえなっていなかった。

 出会ったのは、読者としてである。

 私が初めて読者として山本周五郎に出会ったのは、イランにおいてだった。

沢木耕太郎 ©深野未季/文藝春秋

 二十六歳のとき、ユーラシア大陸の端を伝うようにして陸路ロンドンに向かうという長い旅をしたことがある。

 そのとき、ザックに本は三冊しか入っていなかったが、たまにヒッピーたちのオアシスのような宿で日本人旅行者とすれ違うと、互いに読み終えたものを交換することで新しい本を手に入れることができていた。

 アフガニスタンからイランに入ったとき、ひとりの日本人男性から山本周五郎の文庫本を譲られた。

 それは『さぶ』だった。日本語の活字に飢えていた私はすぐチャイハナに行き、甘いチャイを飲みながら本を開いた。