直木賞選評の厳しい意見が執筆の力になった
――まずは『ナイルパーチの女子会』(2015年刊/文藝春秋)の山本周五郎賞受賞、おめでとうございます!
柚木 ありがとうございます。私、絶対無理だと思っていたんです。他の方たちの作品がすごかったので、候補作を聞いた時から「あ、ないな」って思って。発表の前の数日間は病院にいたのでそのことばっかり考えちゃって、早く落としてくれないかと思っていました。でも作品に対する選考委員の方々のお言葉は本当に嬉しかったです。
――発表後の記者会見は体調不良で会場に来られず、電話での会見でしたね。入院されていたんですか。
柚木 肺炎で入院していて、発表の日はもう退院したんですが医者に自宅で安静にしているように言われていたんです。『けむたい後輩』(2012年刊/のち幻冬舎文庫)の真実子とまったく同じ体で、もともと器官が弱いんです。
――ああ、中学3年生の時にも肺炎で1カ月くらい入院していたんですよね。
柚木 前日も家から出られないからずっとDVDを観ていたんです。世間的な評価はそれほどでもないけれど私の周囲の人が面白いと言っている、局地的な人気の作品を観ていました。窪美澄さんだけが絶賛している『ブリングリング』を観たら結構いいなと思って、窪さんにLINEで「観た」って伝えているうちに「自信ない」という話になって、窪さんは「獲れる」とは断言しなかったけれど「結果はどうであれ、きっと評価されるよ」って。それがすごく励みになりました。
デビュー前、「女による女のためのR-18文学賞」に応募して落ちた時に選考委員だった角田光代さんに「R-18ではなくてオール讀物新人賞に応募したら?」と言っていただいたこととか、『本屋さんのダイアナ』(2014年刊/新潮社)が直木賞の候補になった時の選評がすごく力になったことを思い出して、そうか、落ちたとしてもきっと選評が私の力になるな、と気持ちを切り替えていました。また落ちるという前提で。
――柚木さんは角田さんのアドバイスでオール讀物新人賞に応募して受賞されたんですよね。『本屋さんのダイアナ』の直木賞の選評が力になったというのはどういうところでしたか。
柚木 全部厳しいご意見だったんです。「最近の作品は社会に入っても高校時代の人間関係を引きずっているが、人生はそういうものではない」とか「ちょっと幼いんじゃないか」というご意見があって、あ、私、幼いんだって気がついたんです。私は高校時代の人間関係を引きずっているような、幼くてどうしようもない、東京からほとんど出たことがない、小田急線の先に行ったことのない、大人なのに子供みたいな人で、幼いなりにやっていくしかないんだ、って。腹が括(くく)れました。それは『ナイルパーチの女子会』を書くうえで影響があったと思います。
――その『ナイルパーチの女子会』で受賞されて、本当に良かった。受賞会見の時、記者の方々に「『今回は頑張った』とおっしゃっていましたが……」などと訊かれて「そんなこと言いましたっけ」と答えていましたけど、以前、私にも「今度出る本は頑張りました」とおっしゃっていましたよ(笑)。
柚木 ちょっと忘れていました……。いろんなところでいろんな話をしたので、分からなくなってしまって。これは「別冊文藝春秋」で連載を終えた後でもう1回完全に書き直したんです。連載が終わってからナイルパーチを見に行って、また調べ直して書き直して、もう1回ナイルパーチについて調べて……と、3段階あったので、その時々で言っていることが違ったんだと思います。デビュー以来、こんなに推敲したのは初めてです。本当にしっかり読み直して、よく考えて書き直しました。その時間をくださった担当編集者のおかげです。