『ナイルパーチの女子会』で一区切りがついた
――前にインタビューした時、これまでいろんな女性同士の関係を書いてきたなかで思うところがあって、今回の作品に繋がったともうかがいましたが。
柚木 「女同士の関係は難しいもので、ドロドロしていて、うまくいかないものだ」って決めつけられるのが嫌なので、手を替え品を替え、そこと戦ってきたつもりです。
はじめての単行本の『終点のあの子』(2010年刊/のち文春文庫)では「女子高のいじめの話」だと言われ、次の『あまからカルテット』(2011年刊/のち文春文庫)で社会人の女の人たちの友情の話を書いたら「ファンタジーだ」みたいに言われて。『ランチのアッコちゃん』(2013年刊/のち双葉文庫)も女性同士の上司と部下の明るい話ですが、「アッコちゃんみたいな上司が現実にいればいいのに」という感想を貰うことが多くて。もちろん、どんな感想でも嬉しいですが、「ファンタジー」だと言われて、やっぱり私は負の部分も書かなくてはいけないなと思ったんです。
でも『ナイルパーチの女子会』にもいろんな意見があって、好きだと言ってくださる方もいるけれどやっぱり「女同士は怖い」という意見もあるんですよね。だから記者会見で佐々木譲先生の「共感したという声もあった」という講評にとても救われました。
――会見で「共感なんて奇跡、宝物のようなもの」とおっしゃっていましたね。
柚木 共感できるものはいいもので、共感できないものは悪いものっていう考え方は、それこそ友情を遠ざけるなと思うんですよね。自分とぴったり意見が合う人じゃないと友達じゃないとか、分かり合えないと友達じゃないとか。
私、同じ時期にデビューしたのが朝井リョウ君や窪美澄さんなんですが、朝井君は言っていることは8割くらいしか分からないし、窪さんは小説で目指しているところが高過ぎて私には分からないんですが、でも2人とも大好きです。じゃあ3人で何を話しているかというと、くだらないことばかりなんです。でも、その時間がすごく大事だし。『文芸あねもね』(2011年同人誌として刊行/のち新潮文庫)を一緒に作った人たちも、たとえば宮木あや子さんは美しいものが好きで、彩瀬まるちゃんは相撲好きで、山内マリコちゃんは海外志向で……と、みんな趣味も価値観も違いますが一緒にいてすごく楽しいんです。
――さて、さきほど推敲の時間がもらえたという話がありましたが、確かにこれまで、いろんな依頼が殺到していて、じっくり推敲する余裕もないくらい忙しそうでした。
柚木 私だけではなくて、他の作家の友達にも依頼は殺到していたんです。みんなうまく優先順位をつけているのに私はもう猪突猛進の栄利子と同じで。優先順位もつけずに引き受けて、1分くらいで考えた話をガーッと書きあげてきちんとした推敲もせずにいたのがこの5年間でした。『ランチのアッコちゃん』の「ゆとりのビアガーデン」なんて、飛行機の離陸から着陸までの間に書いたんですよ。だから今まで書いたものを読み返すと、悪いところがいっぱい目につきます。それらを「好き」と言ってくださる方々には申し訳ないんですが、私としてはもっともっと時間をかければよかったと思うところがいっぱいあるんです。
今読み返すと『早稲女、女、男』(2012年刊/祥伝社)なんて、なんか普通じゃないです(笑)。『私にふさわしいホテル』(2012年刊/扶桑社)もそうなんですが、一本書きのヤバい勢いがありますね。でも書いてよかったと思うんです。あのヤバいくらいの勢いがあったから『ナイルパーチの女子会』の真織というヤバい人物が出てきたんだなと思います。だから書き飛ばしていたことはすごく反省しているんですけれど、今はあまり後悔するのはやめようと思っています(笑)。
『本屋さんのダイアナ』で初期の自分がやりたかったことは全部できたなという思いはあったんですけど、やっぱり『ナイルパーチの女子会』で一区切りかなと感じています。
――「柚木麻子第一期」が『ナイルパーチの女子会』まで、と。
柚木 「第一期」というか「柚木どうした期」ですね(笑)。この先を今模索しているところです。『ナイルパーチの女子会』を読んで「暗い」とか「怖い」という意見もあるのは私の筆力のなさなんです。「女同士は怖い」という意見と全力で戦った結果、またそう思われてしまったという反省があるので、その反省を次に活かそうと思っています。