一瞬だけどかけがえのない友情の数々が今の私を作っている
――さて、小説を書くようになった当初は、ありとあらゆるタイプの作品を書いて新人賞に応募していたそうですね。
柚木 やれそうなものは全部やるというのがポリシーなので、ラノベとか官能小説とか、書けそうなものはとりあえずなんでも書いて、何か新人賞に入ればいいなと思っていました。読むものはなんでも好きなので、こだわりなくいろいろ書いていたんですけれど、でもやっぱり女同士の話を書いていきたいという気持ちと、女同士はうまくいかないという刷り込みと戦っていきたいなという気持ちの二本柱はずっとありました。
――2008年、オール讀物新人賞を受賞したのが<『終点のあの子』の巻頭の短編「フォーゲットミー、ノットブルー」。女子高で、仲の良かったクラスメイト同士の関係がこじれて、いじめが起きてしまう。
柚木 女子校の先生をしている友達のクラスで、いじめ事件が発生したんです。聞くと複雑な女の子たちの感情が入り乱れていて、その先生も私も理解しつくせない、当事者でないと分からない、それぞれの心の叫びがあるんですよ。いじめっ子は100%悪いんですけれど、その子の言った言葉がすごくて。いじめられた子は優秀で可愛くて、ちょっと個性的な子だったそうで、いじめっ子いわく「あの子は普通とちょっと違うから目が離せなかった。あの子は私たちの中では平気だろうけれど、社会に出たら傷つくと思った」って。「普通じゃないから普通にしようと思った」って。
いじめっ子って「可愛がっていただけ」「いじっていただけ」ってよく言うじゃないですか。ある意味、分かるところもあるんです。いじめっ子は、その子のこと好きなんだってことに気づいていないんですよ、子供すぎて。だって、好きじゃなかったら目が離せますよね? それでいじめが起きるのはやりきれない話でもあるし、ギクッとする話でもある。話を聞いた時、私も何とも言えなくて、この感情を書きたいと思ったんです。
――あの短編を書くために、クラス名簿を作ったとか。
柚木 全員ではないけれど、だいたいどういう子がいるのかは決まっていました。でも、それで何かするつもりではなく、私はそのクラスの話はあの短編で終わりのつもりだったんです。でも受賞した後に、連作にしようと言われたんです。あの頃、私と同期くらいの作家はみんな短編を書くと「これを連作にして一冊の本にしませんか」と言われていました。日本の文学史上、2010年代に局地的な連作短編ブームがあったんです。
――分かります。あの頃、連作短編集が異様に増えて、正直、ちょっとどうかと思いました。でも『終点のあの子』はいじめる側といじめられた側の視点がありましたし、他の短編もすごくよくて、連作にしてよかった作品なのでは。
柚木 私、「フォーゲットミー、ノットブルー」は完全に加害者の立場に感情移入しちゃって、いじめられる朱里への愛しさと憎らしさで喜々として書いてしまったんです。いじめられる朱里ちゃん側を書く必要があったので、それで連作として書くことができたと思います。
――そのなかの一篇「ふたりでいるのに無言で読書」も、そういうことが起きているクラスが背景にありつつも、夏休みに学校外で派手な子と地味な子が交流を持つ話で、すごくよかったです。彼女たちは夏休みが終わるとまた別々になっていくという。
柚木 ああいう一瞬だけの関係が自分の人生でもいっぱいありました。でも一瞬だから寂しいとは思わない。そのちょっとだけ分かりあえたかけがえのない時間が今の私を作っているんです。ずっと手を取り合って笑いあってお花畑にいないと友情とはいえない、とは思わないので。