小説家への転機は親友のひと言から
――最初は小説家ではなく、脚本家を目指していたんですよね。大学生時代にはプロットライターのアルバイトもしたそうで。
柚木 小説は難しいと思ったんです。90年代後半って『ロングバケーション』が終わった後で、『ショムニ』のように原作ありきのドラマが増えていたんです。それで「原作があれば私にも書けるな」と思ったんですよね。大好きな向田邦子さんのように緻密な話は書けないけれど、たたき台があればなんとかなる気がしたんです。たたき台があっても難しいということは、制作会社でアルバイトしてプロット100本書いているうちに気がつくんです。その後、やっぱりドラマだと日本には制約がいっぱいあるし、予算も限られているから難しくて、だったら制約のない小説のほうが楽かなと思い、楽なほうに流れた結果小説を書くんですけれど、小説もまた難しいということに気づくんです。
――大学の卒業後は製菓メーカーに就職し、辞めて後いろんなお仕事をされていたそうですが、はじめて本格的に小説を書いたのはいつ頃ですか。
柚木 25歳くらいの時に書いた「オードリーのクリスマス」ですね。親友の瑛子ちゃんへのクリスマスプレゼントとして書いた話でした。オードリー・ヘプバーンの少女時代の写真を貼ったりして、装丁にも凝ったんですよね。
――どんな内容ですか?
柚木 傑作ですよ! 女の子同士の親友の話です。ヒロインはジョージア・オキーフみたいな画家を目指していて、親友はとっても美少女で「私、オードリー・ヘプバーンみたいになる」って言っているんですよ。でも美人だけどグラマラスなタイプで、オードリーとは正反対の成熟した魅力を持った女の子なんですね、高校生なんですけれど。で、2人はお互いに夢を目指して高め合おうと言っているんですけれど、主人公は美大に行ったら自分よりも絵がうまい子がたくさんいて諦めてしまう。親友も、自分は性とは無縁の、女の子の夢を体現する存在でいたいのになまじいい身体をしているから事務所にグラビアアイドルにさせられちゃうんです。で、よくあるタイプのグラドルとして消費されていく。主人公はそんな親友の姿を見て、疎遠になっていくんです。数年後、彼女が深夜のお色気番組に出ているんですよ。それを見た主人公は彼女が『ティファニーで朝食を』と同じ芝居をしていることに気づくんです。そもそもあれって高級娼婦の話で、それがオードリーの力によって都会の妖精みたいな話になったわけですけれど、とにかく主人公はその番組を見て、彼女はオードリーマインドを失くしていないと気づき、また連絡を取るんです。最後はティファニーの前で待ち合わせをするんだったかな。
――いい話じゃないですか。しかも女の子の友情ものという、柚木さんの原点がありますね、そこに。
柚木 瑛子ちゃんはそれを読んで爆泣きして。2人とも中高生時代は潔癖で思い込みの激しいロマンチストだったけれど、社会に出てそうも言っていられないことに直面していた頃だったので、喜んでくれたんですよね。はじめて小説を書くぞと思って書いたのが、その瑛子ちゃんへのクリスマスプレゼントでした。それで瑛子ちゃんに「小説をやるべきだ」って言われて。