文春オンライン

モンスター化する患者を前に医師はどうあるべきか

『ディア・ペイシェント』(南杏子 著)――著者インタビュー 

note

失敗しようと思う医師はひとりもいない

 この小説では、医師という職業の肉体的なハードさもあますところなく伝えられる。夜勤明けから連続で1日働くのは当たり前で、昼ご飯をゆっくりと食べる時間もない。医師は平均寿命が10歳短いというが、それも当然と納得してしまう。あまりの過密スケジュールぶりに、読んでいる方も思わず息が詰まるほどの緊張感を覚える。

南杏子さん

「医学部に学士入学で編入する前、ちょっとだけ雑誌編集者として働いていました。締切前は徹夜もざらでしたし、殺人的なスケジュールは体にこたえました。でも医師になって、雑誌編集部はなんて人間的な職場だったんだろうと懐かしくなりましたね(笑)。研修医のときは1年で10キロも痩せましたから」

 それに加え、医療訴訟の当事者になることもありえるから医師は気の休まる暇がない。疲弊しきった千晶を常に励ましてくれる先輩の陽子(ようこ) が、実は大きな医療訴訟を抱えていたことが明らかになったとき、千晶の心境に決定的な変化が訪れる。また一方で座間の嫌がらせはネット上での千晶への誹謗中傷にまでエスカレートし、病院内でも大きな問題に発展していく。「失敗しようと思う医師はひとりもいない」しかし、なぜ医師と患者はこうもすれ違うのか?

ADVERTISEMENT

「私は違う職業を経て医師になったので、患者と医師どちらの気持ちもわかるんです。説明不足の医師もいるでしょうし、薬1錠飲まなかっただけで怒る医師もいる。それに反発する患者さんの気持ちもわかりますが、一番の敵が病気であることを忘れてはいけないと思うんです。医師とギクシャクしたからといって病気が治るわけじゃないですから。まずは患者と医師の信頼関係が大切なんじゃないかと。この小説がそのきっかけを作れたら嬉しいですね」

―――

みなみ・きょうこ
1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、大学病院老年内科などで勤務したのち、スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、終末期医療専門病院に内科医として勤務。2016年、終末期医療を題材にしたミステリ『サイレント・ブレス』で小説家デビュー。

ディア・ペイシェント

南 杏子(著)

幻冬舎
2018年1月25日 発売

購入する
モンスター化する患者を前に医師はどうあるべきか

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

別冊文藝春秋をフォロー