「食いっぱぐれがないから」「頭のいいやつは医学部を狙う」。受験エリート高では、そんな理由で医学部を受ける生徒が増えているそうです。しかし前回(1回目)、将来「医師余り」の時代が来るかもしれず、今年医学部に入学した人たちが一人前の医師になる頃には、現在のように引く手あまたで、高給が保証されるとは限らないという話を書きました。

医師にコミュニケーション能力が求められる時代に

 それだけではありません。頭がいいという理由だけで医学部に入ると、後々苦労するかもしれないのです。医学部をめざすなら、そのことも考えておく必要があります。というのも、医療現場では、かつての父親が子どもを導くような関係(父権主義=パターナリズム)が否定され、「患者と医師とが話し合いながら、一緒に治療方針を決めるべき」とされる時代になったからです。

 また、他科の医師や看護師、薬剤師、ケアマネージャーなど、他職種の人たちと一緒に治療を進める「チーム医療」が重視されるようになりました。多くの人とうまく協働作業ができるコミュニケーション能力がないと、仕事を上手に回せない時代になってきたのです。

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医療現場で求められる医師像が変化してきた ©iStock.com

「この人たちには東大に行ってもらおう」と面接で落とす

 頭のよすぎる人たちには、他者とのコミュニケーションが苦手な人も少なくありません。医学部入試の二次試験で小論文や面接を課すのは「医師に向かない」人を不合格にするのが目的の一つですが、ある私大の医学部関係者は、「一次試験の成績が上位の人ほど二次試験で不合格になる人が多い」と話してくれました。その大学では審査官たちが冗談で、「この人は東大に行ってもらおう」と言い合っていたそうです。

 また、その関係者は、「東大医学部卒の医師の3分の1は優秀だが、3分の1は普通、そして3分の1は医師に向かない人たち」とまで言っていました。医学部では頭のよすぎる生徒たちが競って受験するようになったために、「医師に向かない人たち」が面接をかいくぐって医学部に入って来ることに苦慮しているのです。

ADHD、アスペルガー症候群などの発達障害

 頭がよすぎる人たちに、なぜ医師に向かない人たちがいるのでしょうか。それは「ADHD(注意欠陥多動性障害)」や「アスペルガー症候群」など、いわゆる「発達障害」の人が含まれていると考えられるからです。

 ADHDの人には、会議で貧乏ゆすりをするなど落ち着きがない(多動性)、思ったことをすぐ口にしてしまう(衝動性)、仕事でのミスや約束を忘れることが多い(不注意)といった特徴があります。また、アスペルガー症候群の人は、空気が読めず、対人関係がうまくいかない(社会性の障害)、人の気持ちを汲みながら話すのが苦手(コミュニケーションの障害)、特定のことに非常にこだわりが強い(常同的・反復的な行動)といった特徴があります。