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発達障害の中には天才的な科学者、芸術家も

「障害」と言っても言葉や知能の遅れがともなう人から、一見して問題があるように見えない人までさまざまで、ADHDやアスペルガー症候群の中には、記憶力や計算力、創造力などに優れ、天才的な科学者や芸術家として世に名を残した人も多いと言われています。

 それに、医師の中にも「自分はアスペルガーだ」などと打ち明けている人がおり、発達障害でも自分の個性を仕事にうまく適応させて、医師として活躍している人もいます。

コミュ障、教授や患者とトラブル、うつ病……

 しかし、生身の人間と向き合わねばならない医療の現場では、コミュニケーションが苦手だと、医学部を卒業した後に苦労する可能性があるのです。実際に、超エリート高を卒業して、名門大学の医学部に行ったにもかかわらず、卒業後に入った医局の教授とうまくいかず、うつ病になってしまった医師や、不用意な発言で患者とトラブルを起こすので、病棟を出入り禁止になった東大出身の研修医のエピソードを聞きました。

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 エリート高の卒業生は、受験戦争を勝ち抜いた「挫折知らず」の人たちばかりの環境で育っています。一方、現実の医療現場は、話が簡単に通じる人もいれば、なかなか理解してくれないお年寄りもいる。気が弱くて言いなりの人もいれば、強面で一筋縄ではいかない人もいます。そのような中でコミュニケーションが苦手だと、患者さんも困ってしまうし、なにより本人が不幸になる可能性もあるのです。

 コミュニケーションが苦手でも、遺伝子研究や新薬開発などができる「基礎医学研究者になればいい」と思うかもしれません。しかし、基礎医学研究のポスト(就職先)は限られており、2年間の臨床研修が義務化されたこともあって、東大や京大といえども医学部を卒業すると、大半の人が「臨床医」、つまり現実の患者さんを診る医師になります。

コミュニケーションが不得意でも大半の人は臨床医になるのが現実 ©iStock.com

臨床よりも基礎医学研究者になりたい高学歴医学部生

 合格体験記などを見ると、東大や京大の医学部に合格した人たちは「基礎医学研究者になりたい」という人が多いようなのですが、誰もがiPS細胞を発見した京都大学の山中伸弥教授のように、ノーベル賞級の仕事ができるわけではないのです。

 もちろん、山中教授のような世界的な仕事をする人が出てきてほしいと筆者も願っています。しかし、医学部に入らなければ、そのような仕事ができないわけではありません。もしかすると、本気で遺伝子研究や新薬開発をしたいなら、医学部よりも理学部や農学部、薬学部などに入ったほうが、いいかもしれないのです。

 なにより、医学部に行くことが、あなたの才能を生かす道とは限りません。医療に貢献するとしても、数学が得意なら医師の仕事を助けるAI(人工知能)の研究や、臨床研究を発展させる医療統計学などの仕事があります。これからはAIを使ってビッグデータ(巨大で複雑なデータの集合)を効率よく解析し、うまく活用することが成功の近道だと言われています。

医療分野だけに英才が集まる「怖さ」

 さらには、夢物語のように思われるかもしれませんが、原子力に代わって安全かつ安価に利用できるクリーンエネルギーや、核ミサイルが飛んできてもすべて無力化できる電磁シールド(バリア)の技術を開発すれば、どれほど人の命を救え平和に貢献できるかわかりません。

鳥集徹さん ©文藝春秋

 医療にも、画期的な進歩をもたらす天才が必要なことは確かです。しかし、医療ばかりに英才が集まるのは、我が国や地球の未来を考えても「怖い」ことだと私は思うのです。

 将来、医療がどうあるべきなのか、そのためにどんな人材に来てほしいのか、また、人類の未来のためにどんな分野にどんな人材に来てほしいのか、異常な医学部ブームを目の当たりにして、真剣に考えるべき時に来ていると思うのは、私だけではないはずです。

※編集部より:文春オンラインの連載でおなじみの鳥集さんの最新刊『医学部』が3月20日、文春新書より本日発売になりました。5回にわたり新刊の読みどころや話題のトピックスを紹介しています。

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2018年3月20日 発売

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