そろそろ国公立大学医学部入試後期日程の合格発表がある頃です。医学部に合格したみなさん、おめでとうございます。また、次年度の医学部を受験するみなさん、この1年間怠らずに勉強して、悔いなく本番に挑めるよう頑張ってください。
ただし、医学部をめざすなら、自分が本当に医師になりたいのか、そもそも医師に向いているのか、よく自問自答したり相談したりしてから決めてほしいのです。医学部にいけば、ほとんどの人が「医師」になるよりほかありません。医学部や医療界の現実を知らないと、後悔するかもしれないのです。
今の医学部偏差値の高騰ぶりは異常
この10年ほど、ずっと医学部受験ブームが続いており、とくに有名な受験エリート高で医学部をめざす人が増えています。国公立大学医学部合格者数ランキング上位20校の医学部合格者合計は、2007年から17年の11年間で3割も増えました(週刊朝日ムック『医学部に入る』2008年版と2018年版に掲載のデータより)。エリート高での医学部志向が強まったため、国公立大学医学部や有名私立大学医学部の多くが、東大に入るより難しくなったと言われています(医学部医学科に進む東大理科Ⅲ類を除く)。
しかし、このことを私は「異常」だと思っています。なぜなら、医学部は基本的に医師を育成する「職業訓練校」だからです。全国模試でトップを競うような英才たちが、こぞってめざすべきところではないと思うのです。東大医学部だって、医師養成機関であることに変わりありません。なのに、あらゆる大学、学部の中で東大理Ⅲが偏差値トップである必要がどこにあるのでしょうか。
「頭のいいやつは医学部を狙う」という風潮
なぜ、こんなにも受験エリート高の生徒たちが医学部をめざすようになったのか。それは、リーマンショック以降の日本経済の低迷とも無関係ではないと思います。多くの関係者に聞くと「食いっぱぐれがない」という理由で、医学部をめざす人が増えているそうです。また、エリート高の中では、「頭のいいやつは医学部を狙う」という空気もあると聞きます。
確かに、現時点では医師は「食いっぱぐれがない」職業です。地方や勤務の厳しい診療科(外科、産婦人科、小児科、救急など)では、いまだ医師不足は解消されていません。ですが、このままずっと引く手あまたで、高給が約束されるとは限りません。
本当に「医師は食いっぱぐれがない」のか?
実は、こんな予測があるのをご存知だったでしょうか。16年3月に厚生労働省がまとめた「医師の需給推計について」という報告書によると、現在のペースで医師が増え続けた場合、人口の減少にともなって2033年には需要と供給が均衡し、40年には供給が需要を1.8万人程度上回ると推計されているのです。
つまり、この通りであれば、今年医学部に入った人たちが一人前の医師になる十数年後には早くも需給が均衡し、中堅の医師としてバリバリ働くであろう二十数年後には「医師余り」の時代が来るかもしれないのです。