昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ホームランを褒められると複雑……阪神・秋山拓巳のホンネ

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/19

「おまけにしといてください」。謙そんの意味合い以上に、その言葉には「本音」がにじんだ。5月8日、東京ドームで行われた巨人戦で今季初完封をマークした阪神・秋山拓巳は、試合後の囲み取材で、そう答えた。

 質問は「打撃」についてだった。宿敵に三塁を踏ませない圧倒的な投球内容だけでなく、見る者にインパクトを与えたのはバットを持った秋山だった。2回に左前へ2戦連続となる適時打を放つと、4回には左打席から逆方向のレフトスタンドへ今季1号ソロ。投手の中では群を抜くスイングスピード、打撃技術に「すげぇ~」と声を挙げたのは、僕だけじゃないと思う。

 ホームランを「今季初」としたのは、昨年8月18日の中日戦で「プロ初」を右翼スタンド上段にたたき込んでいるから。愛媛・西条高時代に48本塁打をマークしたことから「伊予ゴジラ」と称され、強打者としても知られた存在。ただ、本人はプロ入り後、「打撃」について決して多くを語ろうとしない。

「“伊予ゴジラ”も打者としての呼び方じゃないですか。だからあんまり好きじゃなかったですね。僕はピッチャーなのに、と思ってました」

 巨人戦の一発は、今季、12球団の投手が放った最初の本塁打だったという。そんな偉業も、秋山にとっては、本当に「おまけ」でしかないのだろう。3歳から白球を握り、6歳からマウンドに上がってきた男だ。「投手」として野球人生を歩んできた強い自負があるからこそ「二刀流」という言葉にも「無理ですね」と首を振る。

5月8日の巨人戦、4回に本塁打を放った秋山拓巳

今、こだわっているのは「直球」

「おまけ」の話はここまでとして、秋山が今、こだわっているのが「直球」だ。投手としての原点と言える球種に、伸びしろを求めて、磨きをかけてきた。多くの変化球を操り、これまではカットボールを軸に打ち取ってきた印象の強かった右腕が、昨季は直球を主体にした投球でチームトップの12勝と大きく飛躍を遂げた。

「今年ダメだったら、全く意味がない」と危機感すら漂わせて臨んだプロ9年目。グレードアップを狙い、沖縄・宜野座キャンプでは、変化球を後回しにしてまで腕を振った。沖縄を離れる際には「直球を投げすぎて、疲労で球数が投げられなかった」と1カ月の投げ込みの目標「1300球」に届かなかったことも明かした。

 キャンプ中、スマートフォンのタッチパネルの反応が少しだけ悪くなったという。原因は、中指にできた小さなマメのせいだった。今までは人差し指にしかできていなかったといい「分からないですけど、中指でもボールをしっかり押し込めているのかな」と、利き手にできた小さな変化に、直球の進化を感じ取っていた。