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伊藤智仁と篠塚和典「25年越しの再戦」と、原樹理への緊急メッセージ

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/06/07
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原樹理に対する心からのエールとアドバイス

 さて、本題に入りましょう。僕の古巣・東京ヤクルトスワローズは、開幕以来ずっと苦しい戦いが続いていましたが、交流戦に入るとリリーフ陣の踏ん張りもあって6月6日現在、6連勝中。ようやく光が差し込んできた気がします。平日の夜はかなり時間があるので、高岡ケーブルテレビを通じて、ヤクルトの試合は夢中になってほぼ毎試合じっくりと観戦しています(笑)。

 この快進撃は2年目の中尾輝の活躍がとても大きいですね。元々、投げっぷりがよくて、強打者を相手にしても向かっていく姿勢はすばらしいものがありました。そこに自信が加わり、どんどん調子を上げているのが見ていて、とても気持ちがいい。去年も打たれはしたけど、きちんとバッターと勝負していました。しっかりとゾーンで勝負できたし、決して自滅はしなかった。

 去年の交流戦(6月8日)、中尾はプロ初先発でソフトバンクを相手に3回7失点でKOされました。でも、降板後に僕は「お前は逃げなかった。打たれはしたけれど、きちんとストライクゾーンで勝負できた」と、彼を褒めました。逃げずに勝負するというのは簡単そうに見えて、なかなか難しいこと。でも、中尾はそれができた。これからさらに自信をつけて、より活躍する姿を期待しています。

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古巣・ヤクルトについて語る伊藤智仁さん ©長谷川晶一

 逆に心配なのが原樹理です。開幕以来ずっと先発ローテーションの一角を任されていたものの、1勝もできずにファーム落ちも経験。彼は今、必死に光を求めているようです。昨年までのコーチ時代は「みんなに平等に接する」という思いがあったので、公言することはなかったけれど、僕がもっとも期待し、もっとも飛躍を楽しみにしていたのが原樹理でした。

 テレビで見る限りでは、今シーズンも悪くないボールを投げているように僕には見えました。でも、いいピッチャーに必須である勝負どころでの力を発揮できない。もしくは、「ひょっとして、彼は勝負どころをわかっていないのかもしれないのでは?」と感じます。そこがいちばんの、勝てない原因なのかなと思います。

 じゃあ、どうすればいいのか? それは「勝負どころを感じること」、これに尽きるんです。「ここは勝負だぞ」と感じること。そこで力をマックスにできるか、ギアを一段上げることができるかどうか? 投手コーチ時代に、この点については何度も指摘しています。でも、「勝負どころ」というのは、マウンド上で自ら本能で感じる部分が大きいんです。いくらコーチやキャッチャーが言っても、本能で感じなければ身体は動かないし、自分で感じて、自分でボールに力を伝えなければ意味がないんです。最近では原樹理、以前で言えば、すでに引退している八木亮祐にも同じ思いを感じていました。

 では、「勝負どころ」とは具体的にはどんな場面なのか? 一概には言えないけれど、味方が点を取って反撃ムードを迎えた直後だったり、自軍が簡単に三者凡退に終わった後だったり、ポイントは試合によってさまざまです。あるいは、「ここはホームランを打たれてもいいけど、フォアボールだけは絶対にダメだ」というケースもあります。でも、彼の場合は大事なポイントで簡単にランナーを出してしまったり、失点してしまったりすることが多い。それではチームに勢いは生まれない。当然、自分にも勝ちがつかない。そんな状態が歯がゆくて仕方がないんです。

 でも、ある日突然、変わることができると僕は信じています。若い頃の館山昌平は勝負どころをよくわかっていなかったけど、今ではよく理解しています。原樹理に対して、「気が弱い」という批判もあるようだけど、投手というのは、マウンド上ではみんなビビっていますよ。僕自身もビビっていましたよ。だからこそムキになって打者に向かっていきました。

 大事なことだから、もう一度言います。原樹理の持っているポテンシャルはハンパないです。本当にいいボールを投げます。技術上の問題は何もないのに、昨年も今年も同じことで悩んでいるのが歯がゆくて仕方がないんです。テレビでアップになったときもオドオドしているし、「やられ顔」になっている。今まで自分がどれだけの努力をしてきたのか。どれだけの研究をしてきたのか。もう一度、振り返ってみることで自信は芽生えてくる。自信というのは他者から与えられるものではないんです。

 現状を打破できるのは自分しかいない。冷たい言い方だけれど、本人がやるしかない。でも、彼ならできる。僕はそう信じて、富山の地から原樹理を応援します。勝ち始めたら、面白いように勝てる。その日が来るのは近いはず。彼が立ち直る日を楽しみにしています。

構成/長谷川晶一

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