昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

昨年引退した狩野恵輔さんの新しいお仕事“FC”ってなに?

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/06/27

 なんとか最下位を脱出したものの、苦しい戦いが続くタイガースに新たな助っ人が加入しました。エフレン・ナバーロ。この時期での補強は現状を何とかしたいというタイガースの想いがひしひしと伝わってきます。背番号は「99」に決まりました。首脳陣、タイガースファンの大きな期待を背負って、様々なものを求められるはず。どうかナバーロが甲子園の地で躍動しますように……。

 背番号「99」の前任者もタイガース同様、今、必死にもがいています。しかし、とっても楽しそうに。

背番号「99」の前任者こと狩野恵輔氏 ©文藝春秋

狩野“FC”として再スタート

 狩野恵輔氏は17年間の現役生活に終止符を打ち、今シーズンから“FC”としてのスタートを切っています。“FC”とは、フィルダースチョイスでもW杯で盛り上がるフットボールクラブでも、フライドチキンでもありません。

“FC”=Field Caster(フィールドキャスター)

 今この肩書を背負ってグラウンドを駆け回っています。

 フィールドキャスターは解説者とは全く異なります。解説者は実況アナウンサーと共に放送席に座りますが、フィールドキャスターはいわゆるベンチリポーターと呼ばれるアナウンサーとともにリポーター室(球場によってはベンチ横の通路)が仕事場になります。マイクを持ち、日頃取材している選手やチームの情報を中継に入れるのです。プレーについての解説をすることもありますが、「実は糸原選手はお茶目なんですよ!」とグラウンドでは見えない選手の性格や表情も伝えています。

「恥ずかしさ、照れもあるじゃん?(笑)。ここにいていいのかなと思うよね(笑)」

 今までアナウンサーや記者しかいなかった空間に去年まで縦じまのユニフォームに袖を通していた狩野氏が普通に座っているのです。試合中、選手のコメントを伝えに来た球団広報ももちろん驚いた様子でした。今シーズンも約半分の試合が終わり、ようやくこの光景に狩野氏も周囲も慣れてきたところです。

昨季、17年間の現役生活に終止符を打った狩野恵輔氏 ©文藝春秋

若手選手にも愛される狩野氏

 狩野氏の取材姿勢をみていると本当に頭が上がりません。選手の練習が始まる時間にはピシッとスーツに身を包んだ俳優・浅野忠信に似た狩野氏がグラウンドに現れます。ルーキーから福留選手のようなベテラン、もちろん監督やコーチまでいろいろな人に声をかけ入念に取材しているのです。「きょうはあまり機嫌がよくなさそうだな……」。プロ野球選手も一人の人間。年に143試合も戦っていれば、調子が良くない日だってあります。選手が話したくなさそうなときはそっとしておく。狩野氏は選手の心の調子も見逃しません。

 グラウンドでふと気づいたことがあります。大山選手や高山選手など若手選手の方から積極的に狩野氏に声をかけているのです。今年36歳を迎える狩野氏。彼らとは10個以上年の差があります。それでも若手選手との距離が近いのは狩野氏の気さくな性格はもちろん、去年1年間の2軍生活があったからだそうです。「ほとんど鳴尾浜にいたからね! でもそこで暑い中一緒にやってきたから若い選手も話しやすいんだと思うよ!」。夏の鳴尾浜はクソがつくほどに暑い……取材に行く足も重たくなりますもん。プロ最終年の昨シーズン、1軍出場はわずか5打席だった狩野氏は1年のほとんどをその鳴尾浜で過ごしました。若手選手と共に流した汗が今では信頼となっているのです。