2018年のワールドカップで、サッカー日本代表は決勝トーナメント入りを目指して健闘中だ。初戦のコロンビア戦には、格上の相手であるにもかかわらず2-1で勝利。6月24日夜(日本時間)のセネガル戦は引き分けた。次のポーランド戦の試合結果と今後の日本代表の決勝T入りについて、日本中が注目し、応援している。……と、されている。

 ところが、ごく個人的な理由からその風潮に異論を唱えたのが、『八九六四』 などのバリバリ硬派のノンフィクション作品で知られる中国ルポライターの安田峰俊氏だ。「今回は中国とは無関係ですが」と安田氏が寄稿してきた原稿をめぐり、編集部内のサッカーファンたちは猛烈に反発! 侃侃諤諤の議論の末、ディフェンスを強行突破して掲載に至った“問題原稿”がこちらである。

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青いユニフォームを着た人々の中で居心地の悪さを覚えた新宿の夜

 2018年6月19日夜、私は新宿三丁目で日本語ペラペラの中国人の友人と待ち合わせ、ミニコミや少流通出版物を取扱う書店へ一緒に行って怪しげな政治団体のパンフレットや共産趣味系書籍のラインナップを冷やかしてから、店内で中国語しか通じない中華料理店を2軒ハシゴする楽しい夜を過ごそうとしていた。

 すると、この日はなぜか道端に青いユニフォームを着た連中がゾロゾロと歩いている。歌舞伎町のドン・キホーテの店頭にはこのユニフォームがやたらに並べられ、お客たちが多幸感に満ちた表情でそれを買っている。店内にテレビがある主だった飲食店は、いずれもこのユニフォームを着用したサッカー選手たちを画面に映し出し、誰もが自分の飲食もそこそこに画面に釘付けになっている。

 どうやらワールドカップの日本代表の試合日らしい。しかも、夜遅くに日本が勝ったというニュースが入ると、街はいっそう騒がしくなった。だが、私は日本代表が今回のW杯に出ているのをつい半月前に知った――、というほどこのイベントに興味がない。どうにも居心地の悪さを覚える新宿の夜だった。

6月19日夜、渋谷にて ©共同通信社

30代の日本人男性としては異常なほどW杯に興味がない

 そう言えば、私は高校2年生当時に日本が初出場した1998年W杯の試合もほとんど見た記憶がない。2002年の日韓共催のときは中国に留学中で、隣の部屋の韓国人学生が騒いでいたが、やはり日本のゲームを覚えていない(余談ながら、中国はサッカーのナショナルチームが弱いくせにW杯大好き国家であり、試合がかなり多く中継されている)。

 あとは個々のW杯がいつどこで開催されたかも、日本代表が出場したかどうかも知らない。サッカー選手の名前も、カズとラモスとゴン中山と、中田英寿と本田圭佑しかわからない。日本に生息するクワガタムシの種類のほうがまだしも多く挙げられると思う。周囲の人に聞くと、こういう私は30代の日本人男性としては「異常」と言ってもいい人間であるようだ。

©JMPA

 ただし、私はサッカーという競技自体が嫌いなわけではない。スポーツ観戦への抵抗感もない。プロ野球はたまに見に行くし、テレビで相撲やボクシングも見る。チャリティマラソンに参加する友人に心ばかりの寄付を送ったこともある。将来、仮に自分の子どもが小学校の運動会や球技大会に出たりすれば、きっと全力で応援するはずである。

 だが、私はサッカーの日本代表(というか、日本人のサッカー選手)には興味がない。というより、かなり明確かつ自覚的な忌避感を持っている。私は決して彼らを応援する気にはなれず、彼らが自分の国家の誇りを背負っているとも思わない。

 私がそう考える理由は極めて個人的な体験に基づくものだ。