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ヒーローなんかじゃない『ハン・ソロ』 小物アウトローの「末路」を考える

サブカルスナイパー・小石輝の「サバイバルのための教養」

2018/07/07

genre : エンタメ, 映画

note

ベテランの盗賊ベケット=ルパン三世?

「はあ!? いつもひねくれたこと言っていますけど、今度ばかりは暑さで頭がおかしくなっちゃったんじゃないですか」

小石「まあ、聞けや。この作品でルパンに相当するのは、年老いた切れ者の盗賊・ベケットや。ルパンは基本的に年を取らないキャラクターやけど、宮崎駿監督は『カリオストロの城』で例外的に、最初のルパンから約10年後の『中年になったルパン』を描いている。だからこそ、その後の『年老いたルパン』も観たくなるやないか。ただ、ベケットは一見、『カリオストロ』のルパンのような心優しい男に見えるんやけど、その本性は、宮崎さんが演出に加わる前のファーストシーズン初期、大隅正秋演出のクールなルパンに近い。あえて言えば宮崎ルパンと大隅ルパンの折衷、というイメージやな。

 ベケット=ルパンとして映画『ハン・ソロ』のあらすじを語り直してみると、こんな感じになる。ここからは映画のネタバレも入ってくるから注意してな。若い頃は羽振りのよかったルパンも、年老いて体力・気力とも衰えが目立ち始めた。かつては袂を分かった峰不二子(ベケットの恋人・ヴァル)も、そんなルパンを心配してか再び仲間の1人になっている」

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(右から)ベケット役のウディ・ハレルソンと、ヴァル役のタンディ・ニュートン ©getty

「不二子って、そんなに心優しい女でしたっけ?」

小石「だから、『大隅&宮崎バージョンのルパン』って言うとるやろ! 大隅さんや宮崎さんの描く不二子は、欲得づくで男の間を渡り歩く尻軽女やなくて、自立したしっかりとした女性やし、ルパンを思う心は常にある。ルパンが衰えたからこそ、ルパンを何とか支えようとして戻ってきたんやないか! その辺の人情の機微、分かって欲しいなあ」

「(ようやく熱くなってきた。こうでなくちゃイジリがいがないよねえ)じゃあ、次元は?」

小石「次元はもちろん、ベケットと組んでいる四本腕の腕利きパイロット・リオや。『ルパンの頼りになる相棒』という次元の役回りそのものやろ。残念ながら五右衛門はいない。『カリオストロの城』でも五右衛門は影が薄いからな。宮崎ルパンでは、五右衛門の居場所はあんまりないんや。ベケット=ルパンも、リオ=次元も、最後に一山あててこの世界から足を洗い、静かな余生を過ごしたいと思っている。そこで計画したのが、再生エネルギーの効率を飛躍的に高める大量のレアメタル合金を輸送列車から強奪し、犯罪シンジケートに横流しすることや。計画には軍用の大型ヘリがいる。中東の戦争に傭兵として潜り込み、どさくさまぎれにヘリを強奪しようとしていたところ、戦場で妙な若いチンピラ二人組と出会い、『俺たちにも一枚嚙ませてくれ』としつこく懇願されるんや」

「そのチンピラ二人が、ハンとチューバッカなんですね」

©2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

小石「そういうこと。こいつら二人は、これまでのルパンには登場していなかった『最終回用の新キャラクター』に相当するから、ハン、チューイと映画そのままの呼び方で行くわ。

 不二子は『こんな若造を仲間に加えたら、かえって危ない』と反対するんやけど、ルパンは自分たちの力量にすでに自信を失っていて、『人手不足だから』とか言って受け入れてしまう。そして決行の日。犯行は首尾良く成功するかに見えたんやけど、実は不二子が危惧していた通り、別の犯罪集団に情報が漏れていて待ち伏せに合う。不二子はルパンを逃がすために自爆し、次元も銃撃戦の最中に力尽きる。ルパンは自分の計画の詰めの甘さから、大切な仲間を二人とも失ってしまうんや」