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連載クローズアップ

小津安二郎の名作「東京物語」が復活 香川京子が語る「原節子さんのこと」

香川京子――クローズアップ

2018/07/06

 生誕115年を迎える小津安二郎監督の傑作『東京物語』(53年)が4K映像であざやかに蘇った。本作を含む特集上映「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」が始まっている。上京した老夫婦とその子供らを描いた永遠の名作で、次女役をフレッシュに演じたのが香川京子さんだ。

香川京子さん

「『犬ヶ島』のウェス・アンダーソン監督と今度お目にかかるんです。監督は日本映画のファンでいらして、私が出演させていただいた黒澤明、溝口健二両監督のものも、小津作品もお好きだと伺っています。私は一所懸命にお芝居をしていただけですが、外国の若い監督から評価されるのは本当に光栄ですね」

 小津映画に出演したきっかけは、ある女優への憧憬が強かったからだという。

「『東京物語』に出演を決めた理由の一つは、原節子さんとご一緒出来るということでした。とにかく大ファンでしたので。デビュー前、写真家の秋山庄太郎さんに撮影していただいたとき、秋山さんから『原さんを撮影したくてこの道に入ったんだ』と伺って。私も大好きだとお伝えしたら『じゃあ原さんのご自宅に行こう』と連れて行かれました(笑)。広々したお庭があって、大きなワンちゃんを飼っていらしてね。急な訪問にも拘らず、原さんが快活に出迎えてくださったときの嬉しさは忘れられません」

『東京物語』の撮影は、夏の尾道ロケから始まった。笠智衆、杉村春子ら錚々たる出演者の中、若手女優として緊張の日々だった。

 

「尾道での私の場面は歩いて行く後ろ姿だけでしたが、とても緊張しましたよ。小津監督の現場は本当に静かでした。主演の笠さんは当時49歳でしたが、老いた父親役になりきっていらして、今見ても本当に凄い演技です。普段は長身で、とてもダンディな方なんですよ。杉村さんも気が強くてサバサバした長女役を『こういう人、実際にいる』と感じさせるリアルなお芝居をなさって。私は迷惑をかけないように無我夢中で演じました。撮影中に滞在した宿では原さんが私の隣室にいらして、ちょこっと伺って、美しいお顔を拝見しては引っ込んでいました。笑い声も元気で飾らない、包容力のあるお姉様でしたね」

『東京物語』が不朽の名作と言われる所以を香川さんはこう解説する。

「当時は次女役に近い心情で『大人ってイヤね』と思って観ました。親になってから観直すと、生活に追われている長女の気持ちが分かる。今は笠さんが演じた老夫婦の立場で受け止められます。世代によって見方が変わる映画だからこそ、長く愛されるのかもしれません。ぜひ、この機会に観ていただきたいです」

かがわきょうこ/1931(昭和6)年、茨城県生まれ。53年、小津安二郎監督の『東京物語』では次女役を演じた。その他、『ひめゆりの塔』(今井正監督)、『悪い奴ほどよく眠る』『天国と地獄』『赤ひげ』(黒澤明監督)、『山椒大夫』『近松物語』(溝口健二監督)など、数多くの名作映画に出演。

INFORMATION

「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」
7月7日まで角川シネマ新宿、7月6日~なんばパークスシネマ他で順次上映
http://cinemakadokawa.jp/ozu4k-115/