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伊藤智仁が語った「原樹理がつかんだもの、近藤一樹の頼れるところ」

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/08/09

 2月に富山に単身赴任してから、早くも半年が過ぎました。こんにちは、伊藤智仁です。あの頃は、一面の銀世界に驚きつつも、「あと半年もすれば、北陸ならではの涼しい夏が待っているだろう」と考えていたのに、今年の異常気象は、例外なく富山にも襲来し、連日30度を超える酷暑の中で、若い選手たちとともに汗を流しています。幸いにして、我が富山GRNサンダーバーズは西地区の首位を快走しています。また、クローザーのヒースがNPBに復帰。埼玉西武ライオンズでいいピッチングを続けています。監督としての楽しさ、難しさを感じながら、毎日を過ごしています。

富山GRNサンダーバーズの伊藤智仁監督 ©長谷川晶一

原樹理の見事な勝利を振り返る

 さて、今回は「彼」のことから触れましょう。そう、前回のこの連載でエールを送った原樹理についてです。これまで何度も言っているように、彼のポテンシャルは群を抜いています。とんでもないストレートを投げるし、シュートの切れ味も抜群。さらに、厳しい練習に耐えることのできる身体の強さもあります。それなのに、どうしても結果を残すことができない。本人ももちろんだけど、僕としても歯がゆくて仕方がなかった。

 でも、8月2日に神宮球場で行われた対広島東洋カープ戦。この日先発した原樹理は、本来の彼が持っている力を存分に発揮してくれました。テレビの前で、思わず僕も力が入ってしまったけれど、すぐに「今日の原樹理は大丈夫だ」と確信しました。この日のピッチングに関して言えば、それまではシュート頼みだったのが、きちんとアウトコースで勝負できたのが好投の理由でしょうね。

8月2日の広島戦、7回のピンチを抑えて雄叫びを上げる原樹理 ©時事通信社

 開幕からずっと先発をしていたのに、なかなか勝てなかった。そこで一度、中継ぎを経験した上で、彼は再び先発に戻ってきました。実は去年、僕がピッチングコーチだったときも、彼を先発にしたかったけれど、なかなか結果が出なかったので、開幕当初はリリーフとして一軍に帯同させました。本来、彼の適性はリリーフよりも先発にあると思っています。でも、少しでも多くの経験を積んでもらいたいという思いからの選択でした。

 今年も、なかなか結果が出なかったけれども、彼もいろいろ悩み、考えたのでしょう。この日のように「いかにアウトコースで勝負できるか?」が、彼の生命線。もっと詳しく言えば、「右バッターにはアウトコースの球、左バッターには落ちる球」、これがうまくハマれば、原の実力があれば打たれるはずがないんです。

 この広島戦では「インサイドに行くよ、行くよ」と思わせておいて、きちんとアウトサイドで勝負をしていました。バティスタもそうでしたよね。よっぽどシュートを意識していたのか、インサイドしか待っていないように、僕には見えました。左の丸佳浩に対しても、3三振と上手に攻めていました。この日マスクをかぶった井野(卓)の配球も絶妙でした。たまにインサイドを見せておいて、きちんと内角を意識させていました。

 原樹理が打たれるケースは、ほとんどがアウトコースでカウントが取れずに、自信のあるインコースのシュート頼みになって、そこを狙い打ちされてしまう……。その繰り返しでした。でも、アウトコースできちんとカウントも取れたし、ボールになる球を空振りさせることもできた。シュートピッチャーの場合、きちんと内角を攻めることができれば、アウトコースが本当に遠く見えるものなんです。この日のピッチングで、彼は何かをつかんだのではないかな? 彼に必要なのは自信だけ。次の登板に、さらに期待したいと思います。