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多忙を極める中で書いた『対岸の彼女』で直木賞を受賞。つねに新しい「課題」と向き合う――角田光代(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/02/28

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問

●なぜ角田さんの作品には、母と娘がテーマのものが多いのですか。(20代女性)

角田 たぶん興味があるからだと思います。父と娘とか、父と息子とか、母と息子よりも、母と娘という組み合わせがいちばん、私にとっては複雑に見えて、面白そうな気がします。

●角田先生は、いまいちばんの恐怖はなんでしょうか。(40代女性)

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角田 病気とかでしょうか、やっぱり。

●角田さんは決められた時間以外は仕事しないそうですが、日常生活のなかでアイデアが浮かんでくることはないのでしょうか。また、執筆中にアイデアが浮かばずに手が止まることはないのでしょうか。(40代女性)

 

角田 アイデアは浮かびません(笑)。執筆中に筆が止まる時はもちろんあって、そういう時は別の仕事をします。エッセイAを書いていて立ち止まったら、エッセイBを書くとか(笑)。飽きたらインターネットを見ます。猫の動画とか(笑)。

●作家の柚木麻子さんは投稿時代、角田さんのアドバイスで応募先を変えてデビューできたと聞きました。新人賞に応募する時、応募先はやっぱり絞るべきでしょうか。どのように選ぶとよいと思われますか。(30代女性)

角田 傾向と対策を知るには、その雑誌をすべて、買うのが無理なら図書館で読み、受賞作を読み、受賞作のその後を読むんです。そうすると大体分かるかなと思います。受賞者全員のその後を読むのは無理だと思うので、気になった人だけでも。

●角田さんは純文学、大衆文学の両方の分野で活躍されていますが、ふたつの違いは一言でいうと何でしょうか。また小説を書く時に「純文学を書くぞ」みたいにジャンルを意識されているのでしょうか。(20代男性)

角田 意識はしていないです。その違いについて、ある対談で聞いたことがあるんですけれど、なので私の台詞ではないんですけれど……。銀行強盗をする時に、どういう防犯カメラがあって、犯人は何を着ていて、死角がどうで、という正確な描写が必要ないのが純文学で、そういうのを細かく書かなければいけないのがエンターテインメント小説だって。なるほどと思いました。

 それはね、信じているものが違うんですって。純文は、世の中の仕組みをそもそも信じていないところで書かれている。ビデオカメラがどこにあるかというのは些末なことで、どうでもいいらしいです。でも、エンターテインメントのほうは、現実というものの上に則って書くから、防犯カメラがどこにあるかは書かないといけない、って。

 

●「80年代ジャパニーズロック」というムックで角田さんが、20代の頃、将来的には忌野清志郎みたいな作家になりたいと思っていた、とおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなお気持ちだったのでしょうか。今改めてお好きなRC、忌野清志郎の曲を教えてください。(40代男性)

角田 80年代の頃、私が見ている小説には、演歌と歌謡曲しかないと思ったんです。つまりはいわゆるベストセラーと、純文学の雑誌みたいなものだと思うんですけれど。で、演歌でも歌謡曲でもないものを書きたいと思っていたので、忌野清志郎の名前が出たんだと思います。今好きなRCの曲は…………なんでも好きです、はい。

●執筆の合間にしていることはありますか。リラックス方法など。(30代女性)

角田 猫動画と、人のブログを見たりしています。猫を飼っている人のブログです(笑)。

●角田さんの小説の心理描写はいつもリアリティがあって、どうしてこんなに自分と違う境遇の人の気持ちが分かるんだろうと思ってしまうのですが、こういった人間心理を描くにあたって工夫されていることなどはありますか。(30代女性)

角田 できるだけズルをしないというか、自分の考えをいれずに、自分ではない考え方として、ある考え方を積み上げて作っていきます。その積み上げていく時に、本当はAからEにすぐ行きたくても、ABCDEという手順を踏まないとEに行かないので、そこをごまかさないようにすること。

●角田さんの小説には「メニュウ」や「シチュウ」といった言葉をよく見かけますが、語尾が音引きではなく「ウ」なのはなぜですか。(30代男性)

角田 なんとなく「メニュー」よりも「メニュウ」の感じがする、ということでしかないんですけれども。他には色の「オレンジ」のことを「橙」って書きますねと指摘されたことがあります。

多忙を極める中で書いた『対岸の彼女』で直木賞を受賞。つねに新しい「課題」と向き合う――角田光代(2)

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