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昨年の苦しみを忘れない 主将・中田翔の登場曲に込められた思い

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/23

 残り試合が少なくなっていく。それとは逆に、スタンドからの声がどんどん大きくなっている。中田翔選手への「SHOW TIME」。

 オリジナルの登場曲を持つ選手は多くいるけれど、前の曲と今の曲が歌詞の中で繋がっている選手はそういないと思う。ビーグルクルーの『My HERO』と『My BROTHER』は、ファイターズファンにとって今や大きな宝物となっています。

 この2曲には、男同士の友情が溢れ出ています。その友情の持ち主、中田選手とビーグルクルーのYASSさん・NARIさんとの出会いは今から5年近く前、知り合いを通じての食事会。回を重ねるごとにまずは友人として絆が深まり、どちらからともなく出た登場曲作成プラン。そこから生まれた1曲目の『My HERO』は、どこを切り取っても中田選手を描いたとわかる歌詞でファンの心にすとんと入り込んできました。サビの最後のフレーズは「SHOW TIME(翔TIME)」。

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「この部分をスタンドでファンの皆さんに歌ってもらいたいんですよね」。YASSさんがインタビュー時にぽろっと言った言葉。目の前で聞いた私、そして、リスナーさんは使命感に燃えます。どんどん拡散され、広がっていき、やがて定着。実はHBCラジオ「ファイターズDEナイト!!」が発祥なんです、SHOW TIME。自慢(笑)。

 曲のサビが流れ中田選手がネクストバッターズサークルからゆっくり歩きだす。最後はすっと音は絞られ、ファンの「SHOW TIME」の声だけが響く。中田選手はちょうどこのタイミングで打席に納まり、首をちょっと右斜め後ろに揺らしてからピッチャーを見据える。ここから大声援の始まり、翔TIME。

「SHOW TIME」というファンの大声援を浴びている中田翔 ©時事通信社

男が惚れる男

 その中田選手が昨年は不振に陥りました。高卒10年目のシーズン、国内FA権も取得した年です。打率は.216、3年続いていた100打点は途絶え67打点、ホームランは中田選手には「たった」とも言える16本。数字以上に、悩み苦しんでる姿がファンには気がかりでした。

『My HERO』の歌詞にある通り、繊細な心の持ち主。番組に届く心配の種類はFAともうひとつ。「この成績でチームに必要とされているのか」と思い詰めてはいないか。スタンドには「お前が必要」、そんな横断幕も掲げられました。その言葉が中田選手を留まらせます。残留。

 加えて、キャプテン就任の知らせまで届きました。まだ変われる、ステップアップ出来る、そのきっかけがまた中田選手に与えられました。本人は戸惑っていた様子でしたが、ぴったりだと思いました。上からも下からもこんなにチームメイトに慕われる人はいません。広島で試合があれば若手みんなを実家に招待しておかんの食事でもてなすのは有名な話。

 朝が弱かったり、虫を見つけると嬉しかったり、娘にはメロメロだったり、どこかかわいらしいところを隠さないのも周りを安心させる要素なのかもしれない。稲葉篤紀さんに引退セレモニーで「中田翔を宜しくお願いします」と言わせてしまう、男が惚れる男が中田翔です。チームを引っ張る役割でプレーすることで、彼の感性がまた変わるのかもしれない。残留会見で彼が言ったように、私たちも「わくわく」するキャプテン就任のニュースでした。

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