昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

もしも岡本和真がいなかったら、どんな気分でペナントを見ていたのだろうか?

文春野球コラム ペナントレース2018

 広島V3!

 新幹線の車内でスーツ姿のおじさんが広げるスポーツ新聞にはそんな見出しが躍る。この原稿は、カープがセ・リーグ3連覇を決めた翌日、そして東京ドームで村田修一の来場セレモニーが開催される前日にのぞみの座席で書いている。

 今年も素直にカープは強かったなあ……なんつってレッドブルを飲みながら、気持ちはすっかり28日に東京ドームの巨人対DeNA戦で行われる村田さんのセレモニーに向いている。もしかしたら、「一度クビにしたくせに」と突っ込むマスコミもあるかもしれない。でも、突然の自由契約で昨秋のファンフェスタに村田さんは来れなかった。つまり、巨人ファンと前背番号25はちゃんと別れを言えてない。こんな気まずい終わり方より、最後はお互い笑って「別れても友達でいましょ」って握手できた方がいいと思う。将来的にコーチとしても戻りやすくなるし……とは言っても、あれだけの実績があれば「今さらなんだよ」とか意地になってもおかしくないところを、東京ドームに来場までしてくれるなんて大人だ。男・村田というより、大人・村田。俺はそんな村田さんが好きだった。

 この手のセレモニーやイベントはやってもやらなくても文句を言う人は言う。引退試合にしてもそうだ。全員が満足なんてことはない。今日はどさくさにまぎれて正直に書いちゃうと、個人的に巨人主催試合で行われる人文字アートを作る“アランチョ・ネロ”や“オレンジアフロ配布”にはまったく魅力は感じない。でも、普段それはSNS等で言わないようにしている。なぜなら、自分のように「年間数十試合は球場観戦する30代男性」は最初からそういうイベントの対象じゃないからだ。だって、放っておいてもドームへ行くんだから。

 なんか楽しそうとオレンジアフロをきっかけに新規ファンが球場へ出かけ、固定客になってくれるならそれでいい。今の世の中、あらゆるものに怒り狂ってる人もいるが「果たして、自分がその対象なのか?」は冷静に判断したい。一歩間違うと、ラーメン屋に入って「オヤジ、カルボナーラ食わせろ」なんて要求する意味不明な客になりかねない。それは野球ファンじゃなく、ただの野球クレーマーだ。

背番号25を継承した「4番岡本」の覚醒

 前置きが長くなったが、今回の村田さんセレモニーを実現できた一因は、背番号25を継承した岡本和真の成長にある。だって、これで期待のスラッガーが昨年と同じく打率1割台で2軍暮らしみたいな状況だったら、シーズン中にヒステリックな“村田待望論”が噴出して、それどころじゃなかったはずだから。岡本は村田をしっかり過去にした。プロ4年目の今季は春季キャンプで二岡打撃コーチとスイングの軌道を見直し、春先から好調をキープ。6月2日のオリックス戦から第89代4番打者に座り、「138試合 打率.307 31本塁打 95打点 OPS.929」という堂々たる成績を残している。

今季、4番打者として大きな成長を遂げた岡本和真 ©時事通信社

 途中、32打席無安打や右手親指に死球を受けて21打席無安打があった時も由伸監督は岡本を4番から動かさなかった。ああ見えて、由伸さんは良くも悪くも頑固だ。気まぐれな外国人選手の扱いは相変わらず不器用だし、就任1年目にはどんなに批判されようが長野久義を2カ月近く4番で使い続けた。同じように2018年は22歳の実力と可能性を信じ、巨人の4番を託した。長嶋茂雄は松井秀喜を育て、原辰徳は坂本勇人の才能に懸け、高橋由伸は岡本和真を信じたわけだ。

 反省を込めて懺悔すると、数年前、唐突に外野起用されている岡本を見た時「これは巨人では大成できないかもな」と思ったのは事実だ。というのも、その数カ月前に当時の2軍監督にインタビューした際、「彼はずっと三塁手で育てますよ!」なんて力強く宣言したのを目の前で聞いていたから。大田泰示の反省がまったく生きていない。その場しのぎの一貫性のない育成プランには驚き呆れてしまった。しかし、今季は1軍で覚悟を決めて新25番を中軸に据えた。色々言われることも多い由伸監督だが、これは間違いなく功績のひとつだろう。