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カープ3連覇で思い出した、あの日の黒田博樹のこと

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/29
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試合後、どうしてもマウンドに登れなかった

 きゃあああああと悲鳴のような歓声に包まれた待機場所は立ち上がった巨人ファンの歓喜のステップとハイタッチで揺れた。ひとり、立てずにうずくまったままの私。

「さあ、グラウンドに行きましょー!」とにこやかに誘導する職員さんに「はーい!!」と満面笑みで続く集団、押されるように私もグラウンドに出た。残ったライトの巨人応援団は浮かれて応援歌を繰り返し歌っていた。イベント参加者みんな嬉しそうにグラウンドを歩く。私はぼそぼそと写真を撮った。はしっこにある用具の写真を這いつくばって撮ったりしたので、警備員さんから不審な目で見られた。多くのファンはマウンドにあがり、お互いを写真に撮っていた、投げる真似をしたり、土をさわったり。

 私は、どうしてもマウンドに登れなかった。だって! つい数分前まで黒田がいたんだよ! そこに。サヨナラをくらった黒田が。負けた彼がいた土を私は踏めなかった、どうしても。近くまで行ったがそこまでだった。つらくて涙が出た。こんな日にジャイアンツシートを買ってしまう自分。なんて巡り合わせだ、と。

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 その1年後。優勝を決める日に黒田は先発した。東京ドーム2016年9月10日。私は三塁側2階席でその瞬間を迎えた。奇しくも最後の打者はサヨナラ犠飛を打った亀井選手であった。巡り合わせなのか、これも?

 あの日のサヨナラ負けがあったから同じ場所での優勝は更に意味を持った。この優勝のためにあの日負けたのかと思うほどに。

 勝ちは負けと共にある。同じ球場で負け、勝ち、同じマウンドで打たれ、抑え、同じバッターボックスで三振し、ヒットを打つ。

 負けに意味はない、だけど勝ちの裏にある負けには意味がある。

優勝が決まった日のマウンドに登った黒田博樹 ©文藝春秋

どんな巡り合わせでも戦うしかない

 万年Bクラス5位が定位置、その時代を支えてくれた選手たちもきっと優勝の同じ場所にいたと思いたい。負けが勝ちを支えていると思わずにやってられるか25年。優勝を知らないまま去った選手のなんと多かったことか。暗黒と言われた時代にカープで戦ってくれてありがとう。応援すらしんどい時代、戦っている選手はどれほどもどかしかったか。

 東京ドームで14連敗なんてね、ナゴヤドームでも勝てなくてね、ああ、どこでも負けていたんだった、借金しかなかった。でも好きなままだったよカープ。

 負けた黒田が1年後同じマウンドで優勝投手になる、そんな美しいことってある? 信じられない夢が運命の巡り合わせで現実になった日々をカープファンは選手と共有できた。

 実はこのコラムの順番は事情があって入れ替わった。私は本日更新分ではなかった。優勝の日がまだわからないうちに変更があったのだ、これもまたなんという巡り合わせだろう。できれば杉作監督に書いて欲しかったと震えたが、人生はそういうものだと野球も仕事も教えてくれる。びっくりしている暇はない、次の戦いがあるのだ。思い出せCS敗退を。どんな巡り合わせでも戦うしかないのだ。戦え広島東洋カープ。応援する。これからどんな運命の采配があろうとも。

 来シーズンはもっと苦しくなるんでしょう? 胃が痛くなるんでしょう? 大丈夫、25年越えたファンには3連覇という胃薬がある。苦しいからこそ、また優勝が甘いはず。知ってる。4連覇いこう。

 ちなみに、サヨナラくらったジャイアンツイベントの選手との記念写真。明るい巨人ファン数十人の後ろでひとり、首が斜めになっているのが私です。自分の頭すら真っすぐにできなかったあの哀傷の日。痛みを覚えているからこそ心から言える。

 おめでとう、3連覇。

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