広島カープがいい雰囲気だ。
ケガで戦列を離れている選手はいてもそれさえ復活してくるためのウォームアップに思える。
実際には全員が全員、戦列に参加できるわけではない。現在一軍コーチの廣瀬純さんも現役時代、その最後の頃はそうだった。競争は厳しく、選手の登用に妥協や情はまったくないように思える。だからこそ、一軍にいる選手、二軍にいる選手、誰もが、全員が戦っているとも言えるのだと思う。
非情の情。
そこが選手層の厚さに繋がってはいないか。
大型補強をしないことが自然と層を厚くしたのはもちろんだが、そこが選手層の厚さに繋がってはいないか。
がん手術をした赤松真人選手も1週間前、二軍戦で先頭打者ホームランを打った。
いい雰囲気である。
広島は3週間前の大雨でたいへんな状況である。私がいま住んでいる愛媛もたいへんな状況だから実感としてわかる。
その複雑な思いの中で、いい雰囲気である。
複雑な思いの中で、いい雰囲気でいるための尽力、胆力、そして結果。それは並大抵の、尋常なことではないのだと思う。
大雨から3週間後、アドゥワと丸のヒーローインタビュー
このあと紹介するのは大雨による大災害から2週間後、7月22日の対ジャイアンツ戦、その試合後、ヒーローインタビューの模様である。ただの書き起こしじゃないかといえば書き起こしだが、生まれて初めてヒーローインタビューを書き起こした。ふつうに原稿を書くより時間もかかった。その意味はあるヒーローインタビューだと思った。お立ち台に立ったのはリリーフで窮地を救ったアドゥワ誠投手と、2本のホームランを打った丸佳浩外野手である。
――では、まずアドゥワ誠投手にお話を伺います。本拠地でのヒーローインタビューは初めてじゃないですか?
アドゥワ「はい、初めてです(と、言った後、それを確認するように、噛みしめるようにウンウンウンウンと4度うなずき、恥じらうように微笑んだ)」
沸き起こる拍手と歓声。
――いま、こうやってお立ち台に立って、ファンの皆さんの歓声を見て、どんなお気持ちでしょう?
アドゥワ「そうすね……、最高です(照れるように、にっこり)」
さらに大きくなる拍手と歓声。
――今日は4回途中から2回と3分の2という投球だったんですが、相手に勢いがある中での登板でしたが、どんなことを考えてマウンドに上がったんでしょう?
アドゥワ「そうですね、もう任されたところで結果を残すだけだったので。はい、おもいきって投げれました(確かめるように、うなずいて、胸を張る)」
――今日のご自身のボールの走り、そして投球自体、ふりかえってどうでしょうか?
アドゥワ「そうすね……。(まじめな顔つきになり)まあ、抑えられたのでよかったかなと思います」
丸「ふっ(となりでお立ち台に立っている丸選手の笑うような、なんというのか、安心から来るものでもあるのだろう、安堵の吐息をマイクが拾った)」
アドゥワ「(その笑ったような声を聞き、アドゥワ投手の顔に笑みがこぼれる、そして丸選手のほうをチラリと見る)」
――ねえ、アドゥワさん、今年が一軍初登板から始まって2年目。今日がもう31試合、ここまでのシーズンはどんなふうにご自身感じてますか?
アドゥワ「そうですね。とても充実してます、はい(2度、3度、4度、うなずく)」
――暑い時期に入ってますが、疲れなんかはどうですか?
アドゥワ「いや、まったくないです(キッパリ)」
おおーっという歓声。
ここでアドゥワの“問題発言”が飛び出す……
――今年2年目ということでファンの皆さん、アドゥワさんのことよくご存じだと思うんですが、この先、どんな投球に期待してほしいですか?
アドゥワ「……どんな……(からだを少し傾けて中空を見上げながら困ってしまったのか、にが笑い)」
球場全体がドッと湧く。
――どんなところを見てほしいですか?
アドゥワ「あ、もう、全部、見てください(うなずく)」
――でもホント、この流れの中で丸さん含めて打線が今日も活発でしたね?
アドゥワ「そうですね。もう、“ビッグヘッドさん”のおかげで勝てたので(その瞬間、身体が弾かれたように左に飛んだ、そして苦しそうな、申し訳なさそうな、反省した殊勝な顔つきになる)」
球場がドッと湧き、爆笑、拍手が巻き起こる。