野球選手がデーゲームの際に目の下に付けている黒いアレ。私が初めてそれを見かけたのは1990年代初頭の新井宏昌や石井浩郎といった近鉄の選手の顔であった。それから長らく私はそれを「目の下の黒いアレ」と呼んできた。それ以外に呼びあらわしようがなかったからである。

 その「目の下の黒いアレ」に「アイブラック」という名称があることを知ったのは割と最近のことだ。「食パンの袋を留めるプラスチックのアレ」が「バッグクロージャー」という名称なのを最近知ったのと似たような構図である。名前を知ることにより興味は一層高まる。いつの間にかアレを普通に受け入れてきたが、果たしてアレは一体何なのだろうか。

アイブラックと日本のプロ野球

 そのアレ、アイブラックはフライ捕球の際などに目に入る太陽光の眩しさを防ぐ効果があるとされている。1940年代のアメリカでフットボール選手が使い始めるようになり、その後野球など他のスポーツにも浸透していった。彫りの深い西洋人と違い平坦な顔立ちの日本人への効果を疑問視する声もあるが、日本のプロ野球においても1980年代後半頃から徐々に装着する選手が増えていった。高橋慶彦が目の下に黒い何かを塗っている1980年の写真も見たことがあるので、導入はもう少し早かったのかも知れない。

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 アイブラックの種類としては、逆三角形や長方形のステッカータイプとグリースタイプのものが主に用いられている。アイブラックに関する優れた資料として、ベイスターズの公式チャンネルによるドキュメンタリー映像「FOR REAL Short Story 01」(YouTube)があるが、その中ではコルク栓を炙って目の下に擦り付ける方法が用いられていた。

 カープにも安部友裕や磯村嘉孝などアイブラックを付けている選手は数名いる。しかし「アイブラックを付けているカープ選手」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは丸佳浩ではないだろうか。

アイブラックに関する素朴な疑問 ©オギリマサホ

サングラスとアイブラックを併用する丸

 昨シーズンのセ・リーグMVPであり、走攻守にわたる活躍で今やカープ不動の三番打者となった丸佳浩。その丸が屋外球場のデーゲームに臨む時、必ずと言っていいほど逆三角形のアイブラックが目の下に付いている。それはもう丸の顔の一部のようにも思え、逆にアイブラックなしの丸の顔が物足りなく思える程だ。しかしふと思うことがある。なぜ丸はアイブラックをしているのに、重ねてサングラスをする時があるのだろうか。

 その理由を解き明かすのに、「球場がどちらの方角に向けて作られているか」という要素が関係してくるように思う。公認野球規則には「本塁から投手板を経て二塁に向かう線は、東北東に向かっていることを理想とする」(2.01 競技場の設定)と規定されている。これはメジャーリーグに倣い、デーゲーム時に打者と内野スタンドの観客が眩しくならないようにとの考えに基づくものだ。しかし現在日本の屋外球場ではこの規則は殆んど守られておらず、本塁から投手板を経て二塁に向かう線は、守備側の眩しさが軽減される南に向かっている球場が多い。本塁から投手板を経て二塁に向かう線が規則通り東北東を向いているのはマツダスタジアムのみなのだ。しかしそれは同時に「マツダスタジアムのデーゲームは守備側が眩しい」ということも意味する。

 以前TV番組に出演した丸は、マツダスタジアムでは一球ごとに太陽の位置を確認すると語っていた(NHK広島「お好みワイドひろしま」内「カープdeまるてん」コーナー《2015年5月28日放送》)。特にデーゲームでは時間によってセンターの真正面に太陽が来てしまうので、打球をずらしながら捕る工夫をしているとのことである。そのような過酷な日光の上、色白で瞳の色が茶色い丸の感じる眩しさは人一倍であろうと推測される。それはサングラスとアイブラックを併用したくもなるだろう。