かつて、江戸時代には三多摩では焼畑を行い、ソバを播種していたという。深大寺界隈もソバの大産地だった。その後、養蚕が盛んになると衰退し、産地は北海道へと移り、今に至っている。
「町田市に広いソバ畑がある」
今でも東京にはソバ畑があるのだろうか。そんなことをふと考えていたら、吉報が友人から入ってきた。
町田市では広いソバ畑があり、乾麺などもつくっているというのだ。9月の中旬には白い花が咲きそろうという。そこで、9月最後の3連休の晴れ間に町田のソバ畑を見に行くことにした。
小田急線鶴川駅からバスにのり、薬師ヶ丘バス停で下車。左手に薬師池をみながら、緩い坂をのぼり、住宅街を抜けて5分ほど歩くと、「町田市ふるさと農具館」に到着した。あたりは谷戸の上の多摩丘陵の尾根近く。東京にこれだけの自然があるというのは新鮮な感覚である。「町田市ふるさと農具館」は町田市民が農業とふれあい、地域農業の理解を深めてもらうための施設で、町田でとれたソバ粉で作る乾麺「七国山そば」や「そば粉」、地域で収穫された野菜なども販売している。
500kgものソバを収穫する苦労
ソバ畑の取材に来たことを告げると、畑を管理する「七国山ふれあいの里組合」の岩澤正さんや女性スタッフの方がたいへん親切に教えてくれた。
ソバ畑は118アール(11,800平米)程の広さがあり、春には菜種を植えて菜種油を採取する。その裏作としてソバを植えるようになったのが平成8年。町田市は畑や自然林も多いことから、いずれも近隣の景観植物として植えることにしたそうだ。
しかし、ソバの作付けは意外と難しく、風による倒伏や収穫量の変動も大きい。ソバの品種は現在「信州大そば」で、毎年平均で約500kgも収穫されているが、品種を「信濃1号」に変更したり、播種の時期を早くしたりと収量維持・増量の苦労や試行錯誤は今も続いているという。
「信州大そば」は85~90日で収穫と通常より栽培期間が長いが、風にも強く、脱粒しにくいのが特徴で、収穫率がよいとされる。播種は8月初旬と早めの秋ソバで、9月中旬には眩しく白い花をつける。
今では春に植えた菜種からつくる菜種油、収穫したソバでつくる乾麺「七国山そば」も人気で、「ふるさと農具館」だけでなく、町田市農協アグリハウスさかい店や鶴川店でも購入できるそうだ。