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連載むらむら読書

チャーミングな阿佐ヶ谷姉妹の暮らしに混ざりたくてむらむら――犬山紙子「むらむら読書」

2018/10/07

 今私は「托卵されたカッコウのひなが他の卵やひなを押し出す」動画をYouTubeで見ています。この動画、阿佐ヶ谷姉妹の妹みほさんが夜な夜な見ているそうで。そして布団の中の姉えりこさんは「うるさいな」と思ってるそうで……私も2人の暮らしに混ざった気持ちになりたくて動画を見ているのです。

©犬山紙子

 私が仕入れたこの阿佐ヶ谷姉妹情報は『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』というお2人のエッセイから。この本は、美味しいものをいっぱい知ってて、佇まいがクールなKさんと、大好きなお店で「細切りのパパイヤとマスカットの上にたっぷり削ったチーズとディル」(何を小洒落てと思うかもだけど、美味しければいいんです)を食べながら、とても面白かったと聞いたのです。

「阿佐ヶ谷の六畳一間のアパートで2人が同居してるんだけど、近所の中華屋さんとの交流や、えりこさんの忘れ物グセや無駄遣い、みほさんのツンデレ、変なYouTube見るところ……この暮らしいいなあって思った。あと、独身の40代女性2人が一緒に住んでるって、これまでだったら自虐入ってたと思う。ああ早く結婚したいとか、もうじぶんみたいなおばさんはダメとか。でもこのエッセイは自覚的かどうかわからないけどそういう表現がないんだ」

 謙虚だけど蔑みすぎない。そんな2人の暮らし、しみじみ良いのだ。しょうもないお互いの不満(いびきがうるさいとか)もありつつ、えりこさんが「日々のみほさんがいいのよね~」って言ってるところ(日々のあなたが好きってなんていい表現)、えりこさんがエッセイをかけなくてウンウン悩んでいたら、みほさんが普段だったら絶対作らないえりこさんの好きなバーモントカレーを作ってくれていたこと。人の幸せが結婚とか子供とか属性で測られがちな下品な世の中に、2人のチャーミングな関係がキラリと輝いてる。

「2人が一緒に住んでいるのが消極的選択ではなくて、一緒に住みたいからって選んで住んでるんだよね。それに2人が周りの人にも大事にされているのもすごくいい」

 わかる。私もこの2人をどんどん好きになっているから。今もみほさんが見ているという「変な声で鳴くかえるの動画」を探してる。

 今年、大好きな作家さんが亡くなり、心の中の親友がいなくなった気がしておいおい泣いた。その方と阿佐ヶ谷姉妹さんは全く違う。違うけど、また1人友達ができたって、悲しんでた心の中の私が喜んでる。自分もそんなエッセイをいつか書けるようになりたいとむらむらしたのだ。