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虐待死はなぜ減らないのか 日本は「親権」が重視され過ぎ――尾木ママ語る

尾木のママで

2018/06/21
イラスト 中村紋子
イラスト 中村紋子

「もうおねがい ゆるして」

 照明もないアパートの一室で、五歳の女の子がひらがなで綴ったSOS。目黒区で虐待により女児が命を落とした痛ましい事件には、涙を禁じ得ない。厚労省の発表では子供の虐待死は年間五二人(二〇一五年度)だけど、日本小児科学会によれば実は年間約三五〇人にものぼる。悲惨な事件はなぜ、防げないのかしら。

 今回、児童相談所の対応に批判が集中しているけど、それだけでは問題の本質を見誤る危険があるわ。

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 まず、児相の絶対数が足りてない。東京都では23区に七つのみ。職員や児童福祉司など専門職も足りない。一方で相談件数は過去最多の一二万件超で、近年急増してる。

 児相が把握した全件を警察と情報共有しているのは、三県のみ。警察との連携で、対応スピードと実行力は一気に上がるはず。また、強制的に親子分離を図る「28条措置」など法的権限も駆使して子供を保護するために、一六年に弁護士配置が義務化されたけど、常勤が理想ね。児相が扱う案件は虐待以外に非行、病気、障害など多岐にわたる。

 日本の児相が重点を置くのは「親に我が子を養育させるためにどう支援するか」。つまり親のサポートが最優先。でも、虐待で生存権さえ脅かされる子に、親の立ち直りを待つ余裕などない。

 日本は「親権」が重視され過ぎ。短時間でも車内に子供を放置すると逮捕されるアメリカの例は極端かもしれないけど、日本でも親の保護義務をもっともっと強化すべきよ。

 日本は国連の「子どもの権利条約」を批准してる。その理念は「子どもの最善の利益」。今回の女児は施設職員の問いに、おうちより「施設がいい」と答えた。施設で保護し養育すべきだったのではないか。

 子は親の私物ではない。社会全体で養育するという視点を根付かせ、虐待のない環境にしなければならないわ。

虐待死はなぜ減らないのか 日本は「親権」が重視され過ぎ――尾木ママ語る

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