文春オンライン
『ヴェノム』はマーヴェル史上初の80年代回帰作にして進化系だ!

『ヴェノム』はマーヴェル史上初の80年代回帰作にして進化系だ!

自分を阻むやつは殴る、蹴る、喰う! ワルなやつ。

2018/10/11
note

トム・ハーディの寄るべのない少年のような可愛さ!

 永遠の武闘派マッド・マックス(『怒りのデス・ロード』)と寡黙な戦闘機乗り(『ダンケルク』)の両方を演じ分けたトム・ハーディがエディを楽しげに演じている。彼は宇宙規模に事業を広げるライフ財団の若き総帥にして、マッド・サイエンティストのドレイクに人体実験にまつわる直撃取材を行ってしまい失職。真相をつかもうと乗り込んだ先で宇宙からやってきた液状生物シンビオートと図らずも同化してしまう。トムの負け犬演技(寄るべのない少年のような可愛さ!)の後、追手を千切っては投げという黒いリキッドタイプの暴力番長ぶりがまず必見だ。

 

新しい〈バディ(相棒)もの〉

 この番長、自らをヴェノムと名乗り、1人称が「ウィ=俺ら」である。エディは乗っ取られた、寄生されたと否定するが、ヴェノムは信じられないドスの利いた声で「おめえと俺は一心同体だぜ!」(ちなみにその声もトムのもの)と譲らない。根は良い人のエディはヴェノムに引きずり回されることになる。ヴェノムとエディには共通の敵、ライフ財団率いるドレイクがいる。なので呉越同舟、2人は連中相手にサンフランシスコ狭しと、大暴れを繰り広げるのだ。

 

「いまやハリウッドは『ハン・ソロ』(18)ですら〈バディ(相棒)もの〉とされるくらいトレンドになっています。そこへ『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)から『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)のシリアス路線へ至ったマーヴェルがフェーズを変えてきている」

ADVERTISEMENT

理屈抜きの楽しさを追求したマーヴェル

 と、マーヴェル映画ファンの菊地成孔さんは「週刊文春 シネマ特別号」で本作を分析する。菊地さんが同書で指摘するとおり、確かに『ウィンター・ソルジャー』では、アベンジャーズを抱える組織SHIELDの内部崩壊が描かれ、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15)では『シン・ゴジラ』(16)で描かれた怪獣災害ならぬヒーロー災害がピックアップされた。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)では内部対立まで発展し、『インフィニティ・ウォー』でヒーロー含め全宇宙半滅である。やはり、さしものマーヴェルもこの流れは観客にとってドン引き対象で、展開が深刻過ぎると感じたようだ。指パッチンでヒーロー瞬殺の『インフィニティ・ウォー』公開直後に『アントマン&ワスプ』(18)で男女バディの爆笑篇に仕上げていた。理屈抜きに楽しめるものは何かを追求した末にマーヴェルが選択したのがバディものだったのだ。