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連載この鉄道がすごい

「ぬれ煎餅」の次は「まずい棒」 銚子電鉄の自虐ネタが止まらない

実はおいしい「まずい棒」

2018/11/19

genre : ライフ, , グルメ

 ヤケクソになって頑張る人は感動的な結果を出す。

 銚子電鉄が販売する「まずい棒」を食べてみたら、まずいどころか、おいしい。「うまい棒」くらいおいしい。それなのに、なぜ「まずい棒」なんて名前をつけてしまったか。むしろ、ネーミングがまずいだろ……。

青い車体は銚子の海のイメージ。かつて人気を博したトロッコ車両「澪つくし号」にちなむという

ぬれ煎餅とまずい棒を一緒に食べると……

 実はこれ「経営状態がまずい」という自虐ネタだ。まずい棒のCM動画はもっとまずい。ロマンスグレーの御仁が登場して「うーん、まずい、もう一本」と叫び、「ちょーでんキューサイ(銚電救済)もう一本♪」という、緑色の健康飲料を連想しそうなフレーズの歌で締めくくる。

 こんなギリギリのセンスで踏みとどまるギャグは、バブル絶頂期のお笑い番組のようだ。もちろん筆者の大好物。CMではさらに、ぬれ煎餅とまずい棒を一緒に食べると、口の中で醤油味とコーンポタージュ味が混ざって、焼トウモロコシ味になるという。またまたぁ、そんな、両方売りたいからって、いい加減なことを、まさかねぇ……ポリポリ……ほんまや!!

「まずい棒」を通信販売で購入。
1本50円、15本セットで600円。銚子電鉄と高校生の交流を描いた映画のDVD『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』と15本のセットは3,000円(すべて税込) ©杉山淳一

本業は鉄道です

 ぬれ煎餅にまずい棒、いまや菓子メーカーとして全国に認知されている銚子電鉄は、本当は鉄道会社である。千葉県銚子市、JR総武本線の銚子駅を起点として、初日の出スポットとして有名な犬吠埼付近を通り、外川(とかわ)駅が終点となる。営業距離は6.4kmという小さな路線だ。もともと観音駅で鯛焼きを販売して名物になるなど副業に熱心だった。

なんとも時代を感じさせる終点の外川駅

 しかし、銚子電鉄の収入は減り続ける。高度経済成長期に年間250万人以上もいた乗客は、自動車の普及とともに減り続け、平成に入ると100万人以下。

 補助金頼みの経営だったが、ついに行政から見放されそうな平成18年に、当時の社長による横領が発覚。さらに国土交通省の監査が入り、「2カ月以内に老朽化した線路設備を改修しなければ運行停止」と告げられた。その費用は約5,000万円。電車の法定点検の期限も迫り、その費用は1,000万円。横領事件のせいで銀行の融資も断られた。

タブレット交換も現役だ

ネット上で拡散、祭りが始まる

 当時の銀行残高はわずか200万円。なんとか現金を集めなくては。全国からお客を集めても限度がある。彼らに残された売り物はきっぷと……副業で始めた「ぬれ煎餅」だった。必死の思いでホームページに「ぬれ煎餅を買ってください!! 電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」とメッセージを載せた。

こちらが銚子電鉄名物の「ぬれ煎餅」

 このメッセージを見た「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)鉄道板」の住人たちが騒ぎ出す。日頃から鉄道ネタを探しては面白がっていた彼らの心には、「煎餅の売り上げで電車を直す」というネタがささった。ネット上で拡散、祭りが始まる。当時は勃興期だったネットニュースメディアも反応し、テレビ報道へ波及。国民全体に知れ渡る。10日間で1万件以上の注文が集まったという。

 ぬれ煎餅がヒットしてからは副業のほうが有名になる。鉄道事業の支援を国に求めたら「おたくはお菓子で儲かっているんでしょ」と嫌みを言われたとか、都市伝説のようなエピソードも耳にした。そのぬれ煎餅がなければ、銚子電鉄はとっくに廃線だった。

関東平野の最東端にして、日本の海岸でもっとも早く初日の出が見られる場所として知られている。大晦日から元日にかけて、JRの臨時列車の銚子駅到着に合わせて、銚子電鉄も臨時運転を実施する