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藤原 敬之
2017/01/28

5000億円を動かしたカリスマファンドマネージャーの情報術

1.5次情報氾濫の時代に必要なのは“切り口”である

「オギャアと生まれてから死ぬまで人間は何をしているか? 5文字以内で記せ」

 これが大学院入試レベルの設問として……正解は?

 “情報の処理”に他ならない。

 我々人間は五感を通して得る情報を片時も休まずに処理し続けている。見方を変えると人間が関わるあらゆる事象・現象は膨大な情報の処理と結びついているといえるのだ。

 私は2010年に引退するまで四半世紀に亘りファンドマネージャーという仕事に就いて来た。農林中央金庫を振り出しに、野村投資顧問、クレディ・スイス信託銀行、日興アセットマネジメント、藤原オフィス・アセットマネジメントと、最後は独立した自分の運用会社を持って日本株運用のプロフェッショナルとして生きて来た。

「フジワラが運用する」と看板に掲げ集めた運用資金は国内外累計5000億円に及んだ。ファンドマネージャーという仕事の情報の処理はその量と範囲の膨大さに於いてあらゆる職業を凌駕するだろう。マクロからミクロまでの経済・企業情報に加えて政治や制度の動き、そして社会現象全般にまで及んだ。

 現在は波多野聖のペンネームで小説を書くことを生業としているが、今この世の中で起きていること、起きようとしていることについて、自分なりの“切り口”“態度”を披露する場は常に持っていたいと考えている。そのひとつが本欄となる。

“切り口”を交換することが情報のやり取り

「フジワラ。情報のやり取りというのはインサイダー情報を交換することじゃないんだ。自分の“切り口”を交換することが情報のやり取りなんだぞ。

 農林中金時代の上司であるO氏。彼のもとには経済記者たちが門前市を成していた。皆、O氏の“切り口”を求めて集まったからだ。本物の天才であったO氏から様々なことを学んだが中でもこの言葉は私のその後の人生を創ったといえる。

「株価とは、何か?」

 私の職業半生はそれを考え続けることだった。

©iStock.com/phongphan5922

 Aという上場株があるとしよう。様々な情報を基にある人はAを「買い」だと判断する。別のある人は別の情報に基づいて「売り」と判断する。そのようにして膨大な数の人間の「買い」と「売り」がぶつかって株価という一点で情報は処理される。

 株価とは、情報が処理された後の記号にすぎない。

 株式・債券・為替などの金融市場は膨大な情報処理の場でありその存在によって、進化した経済・社会は曲がりなりにも安定を続けている。そのような“場”がなければ情報とそこを取り巻くマネーの歪みによって途轍もなく大きな混乱が世界を覆い続けることになるだろう。人間が生み出した“市場”というシステムの効用の普遍性がそこにある。

 だが情報処理の本来的主体は“場”ではなく我々人間である筈だ。そこに20世紀最大の哲学者ハイデガーが唱えた人間の本来性があると私は考えるのだ。

 現代社会においての情報には次元がある。

 生の情報といえる1次情報(例:経済統計数字、企業決算情報等)。何らかの加工がされた2次情報(例:新聞・雑誌・TV等マスメディアによる発信、アナリストレポート、書籍、論文等)。そして、今日ではSNSによって拡散される1次とも2次とも判然としない情報(1.5次情報と名付けよう)があり既存マスメディアをしばしば凌駕する。英国のEU離脱、米国のトランプ政権誕生……それらは1.5次情報の力が強く働いた結果とも言われている。1.5次情報にはフェイクニュースと呼ばれる完全な嘘情報も含まれるがそれすら強大な力を持つ時代なのだ。

 我々は情報の処理においてこれまでの人類が経験したことのない環境に置かれている。そこでは3次元情報が重要ということになる。それは我々自身の“切り口”を通した情報だ。

 情報の取捨選択など出来るものではない。あらゆる情報は様々な形で遠慮会釈なく飛び込んでくる。重要なのは我々の“切り口”であり“態度”なのだ。

『新世紀エヴァンゲリオン』を創造し『シン・ゴジラ』を監督した庵野秀明は、自分はオタクだったから『スター・ウォーズ』が公開されてから4、5年は観なかったと語っていた。SFは大好きだがメジャーなものを忌避する若き日の“態度”がそこにある。その核が後のSFの巨匠を創ったのだ。

 次回以降、私の“切り口”と付随する“態度”を披露することになる。請う御期待。

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