「とにかく、みんなしとどに酔っていた」――1999年から取材のために西成地区に多く訪れたルポライターの村田らむ氏。
そんな氏が今も思い出す西成の“ユカイな酔っぱらい”たちの記憶とは? 新刊『にっぽんダークサイド見聞録』(産業編集センター)より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
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“当たり”の作品もあった裏ビデオ屋
当時は覚醒剤だけではなく、様々な物を路上で売っていた。
最も盛んだったのは、弁当やパン、おにぎりなどだ。もちろんまっとうに仕入れたものではなく、消費期限切れの廃棄品をなんらかのルートで手に入れて売っていた。
弁当ならどれでも100円、パンおにぎりは2~3個で100円ととても安かったので、みんな奪い合うように買っていた。
初めて取材した頃は、金が全然なかったから当然お世話になった。お腹を壊したりすることもなかった。
当時はヘビースモーカーだったのだが、韓国から輸入してきたタバコを売る露店もあった。税金の差で安く仕入れることができるらしく、助かった。後から密造タバコもあったとも聞いた。日本のタバコとは味が少し違ったが、気になる程ではなかった。
露店ではゴミとしか思えないようなモノも、商品として売っていた。テレビのリモコン、自転車のカギ、鉄アレイ、日本人形、などなど。電気工具もたくさん売られていたが、働いている人が食い詰めて売ってしまったか、作業現場などで盗んで売っぱらってしまったかだろう。
「朝起きたら、道具一式がなくなってたんや。泣く泣く買おうと思ったら、露店で自分の一式をそのまま販売してた。悔しかったわ」なんて話も聞いた。
裏ビデオも売っていた。ケースにVHSのビデオをズラッと並べて売っていた。一本1000円で買うことができるのだが、またその露店に持っていけば500円で買い取ってくれる。セルとレンタルの間のようなシステムのお店だった。
何本か見てみたが、ダビングを重ねてだいぶ劣化した映像だった。当時愛用していた人に話を聞くと、中には“当たり”の作品もあったらしい。