「青木ヶ原樹海で自殺をしたいと考えているのですが、もしよろしければ樹海を案内してもらえませんか?」…ルポライター・村田らむ氏に届いた、見知らぬ女性からのダイレクトメッセージ。
彼女と村田氏、そして樹海に詳しい友人で樹海を潜ることになったが、3人で行動をともにするに連れて、女性に大きな変化が訪れる……。いったい何が女性の自殺願望を消し去ったのか? 村田らむ氏の新刊『にっぽんダークサイド見聞録』(産業編集センター)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
いざ青木ヶ原樹海へ
Kさんの自動車に乗り込み、青木ヶ原樹海へ向かった。
念の為、いつも入り口にしている富岳風穴や鳴沢氷穴はやめて、目立たない場所にある登山道から入ることにした。
つまり、“樹海の中で死にたいと思っているAさん”と“樹海で死体を探すのを趣味にしているKさん”と“樹海のルポを書く俺”の3人で樹海に入っていったのだ。
Aさんは樹海の中を歩きながら、ロープを吊るせる枝を探している。
「樹海って細い枝が多いですよね……。こんな細い木では首吊ったら折れちゃいますよね?」
「いやそんなこともないですよ。意外と細い木で吊ってる人多いですよね、Kさん?」
「そうですね。足を地面につけて死ぬなら、木は細くても大丈夫だと思いますよ」
「そうかあ、足を下につけても首は吊れるんだ。ありがとうございます」
そんな会話が繰り広げられている。
あくまで紳士的な会話だが、まあまあ狂っている。
AさんとKさんは、目的が一致しているようで、実は微妙にズレている。
Aさんは「樹海で死んで見つかりたくない」
Kさんは「樹海散策で死体を見つけたい」
Aさんは当然「死体が見つからない方法」を聞く。その答えは簡単で、なるべく樹海の奥の方に入っていったら見つかりづらくなる。
多くの自殺者はそれほど樹海の奥に入らずに死んでいる。探索するKさんや他の人達も、基本的には“人が死んでいそうな場所”を中心に探す。だから樹海の奥に進めば進むほど、見つかりづらくなる。
だが樹海は高低差があり、風景も見分けがつかず、まっすぐ進むのは非常に難しい。だからGPSを頼りに進む人が多い。昔は、ガーミンなどのGPS専用機を使う人が多かったが、今はスマホの地図アプリで十分代用がきく。
「登山用のこのアプリを使ってますよ。あらかじめ地図をダウンロードしておけるので便利です」
Kさんは、Aがさんにそんな知識を与えつつ、なんとも複雑な顔をしている。Aさんが、樹海の中心部で死んでしまったら、Kさんは死体を見つけるのが難しくなる。
まさに“敵に塩を送る”状態なのだ。