本のテーマより面白さより、ボソボソとした独特の語り口が身体に染みつき忘れられないことはあり、『万延元年のフットボール』『老妓抄』『人間失格』はそれに該当する。どれも日本文学史に残る稀代の名作であるのは間違いないけれど、どこが素晴らしいか改めて考え直してみると、耳のすぐ真横でほとんど呪文のように呟き続ける低い声音の語り口だ。『万延元年のフットボール』の繊細で緻密な細い根のように世界がじわじわ広がってく語り口、『老妓抄』の小気味良い、「こんなことがあったんだが、まあそれだけだ」と言った風なぶっきらぼう且つ味わいのある語り口。ほぼ洗脳なほどの分かりやすさで救いようのない厭世を告白する『人間失格』の大庭葉蔵。これらの作品の語り手たちはほとんど読者を意識してないのに、自分の中身をさらけ出して語ることで人間の本質を突くから、読んでいる方はまるで言伝を受け取ったように、いつまでも忘れない。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から
-
1カ月プラン
新規登録は50%オフ
初月は1,200円
600円 / 月(税込)
※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。
-
オススメ
1年プラン
新規登録は50%オフ
900円 / 月
450円 / 月(税込)
初回特別価格5,400円 / 年(税込)
※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2022年1月号