暑い尾張をさらに熱く! 酒豪東北男児の快進撃

大相撲新風録 第31回

エンタメ スポーツ
殊勲賞を受賞した錦木 ©時事通信社

錦木(にしきぎ、岩手県盛岡市出身、伊勢ノ海部屋、32歳)

 32歳の錦木が、暑い尾張の地の土俵を盛り上げた。自身最高位の東前頭筆頭で迎えた名古屋場所。初日は新大関霧島のまさかの休場で不戦勝となり、2日目には横綱照ノ富士を豪快な掬(すく)い投げで転がした。続いて大関昇進を懸けた豊昇龍、大栄翔、若元春の3関脇も撃破。11日目まで1敗を守り、優勝争いトップに躍り出る快進撃を見せたのだ。好調の原因を問われると、「連勝しているのが奇跡。困りますね、プレッシャーがかかって(笑)。でもいい感じに力んでない」とトレードマークの黒縁メガネ姿で報道陣に応える。しかし後半戦で4連敗を喫し、幕を閉じれば10勝5敗。

「3敗した時点で優勝は無理だな、と。今夜もお酒を飲みます! 勝っても負けてもお酒の量は変わりませんよ」

 角界きっての酒豪は、優勝賜杯を逃しても、泰然自若の余裕ぶりを見せていた。

 2006年3月、岩手県の中学を卒業して伊勢ノ海部屋に入門した“たたき上げ”力士だ。同期生には、すでに角界を去った松鳳山、栃ノ心、千代の国らがいる。なかでも特に仲の良かった千代の国が場所中に引退を発表すると、千代の国の四股名入りの浴衣を羽織る錦木の姿が。「この浴衣? たまたまですよ」と照れを隠しながら、「代わりに彼の名前を売ってあげなきゃね」と心優しい一面も見せていた。

 二桁勝利の好成績と照ノ富士から金星を奪ったことが評価され、初めての三賞となる殊勲賞を受賞した。所要103場所の最遅記録となるが、

「初めてなのでどの賞でもうれしい。あと1番でも勝ちたかったですね。感じていないつもりでも、どこかで(優勝争いのプレッシャーが)あったのかも。いい経験になりました」

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source : 文藝春秋 2023年9月号

genre : エンタメ スポーツ