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文春オンライン、週刊文春の“別班”が総力を結集して謎に迫る『VIVANT』を120%楽しむ!

「水を飲まなくても…」モンゴル研究者が『VIVANT』に指摘したい“あるシーン”とは

「水を飲まなくても…」モンゴル研究者が『VIVANT』に指摘したい“あるシーン”とは

モンゴル研究者がみる『VIVANT』#1

2023/09/10
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 だが実は、現実のロケ地は、そこまで恐ろしくはない。撮影が行われたホンゴル砂丘はモンゴル最大の砂丘だが、ゴビ砂漠の中でも特に美しい場所として有名で、今やモンゴル屈指の観光地である。東西延長は185km、総面積925平方キロメートル。映像では茫漠たる荒蕪の地に見えるが、意外とアクセスも良い。まず首都ウランバートルから飛行機でウムヌゴビ県の県都、ダランザドガド市へ飛ぶ。1時間半ほどのフライトだ。そこから180km、車で3時間ほど走ると、あのうねるような砂丘があなたを待っている。

世界初の「恐竜の卵」が発見された場所

 ゴビ砂漠でジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)を薫が看病していた洞窟のある場所は、ウムヌゴビ県ボルガン郡にあるバヤンザグだ。切り立ったメサ(卓状台地)の崖からゴビ砂漠が一望できる絶景の地である。バヤンザグも、県庁の町ダランザドガドから北西へ90kmほどの人気の観光地だ。

 1923年、ドラゴンハンターの異名をとったアメリカの探検家ロイ・チャップマン・アンドリュースは、この地で世界初となる恐竜の卵の化石を発見した。そのほか、多くの恐竜の化石がここで見つかった。ちなみに鉄分を多く含んだ赤茶色の岩壁群を「炎の崖(flaming cliffs)」と命名したのもアンドリュースだ。ちなみに彼は映画『インディ・ジョーンズ』のモデルとなった人物でもある。

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バヤンザグには今も恐竜の化石が転がっている(2009年、筆者撮影)

 ドラマでは乃木らは、無事、アド砂漠を越えたものの、その先のモンゴル国境近い草原でチンギス率いるバルカ警察の待ち伏せを受ける。これに対して岩山をバックに布陣したモンゴル軍がチンギスのバルカ警察を威嚇射撃し乃木らの脱出を助けたのだが、実はこのシーン、ウランバートル近郊の保養地テレルジで撮影されている。

「水を飲まなくても…」疲れて動けなくなったラクダへの“ツッコミ”

 いずれにせよ、「草原の国」のイメージが強いモンゴルとは裏腹に、本作品ではあえて砂漠を多くロケ地に選んでいた。そうすることで中央アジアの架空の国のイメージを創り出したのだろう。ただし一点だけ指摘しておくと、ラクダは2週間ほど水を飲まずとも生きていられる。第3話で、乃木を乗せたラクダが疲れて動かなくなってしまうシーンがあったが、長さ200kmほどの小さなアド砂漠で倒れることはないかと思われる。

モンゴルのラクダはもっとタフである(筆者撮影)

「3種類の民族衣装」に注目

 本作品で登場するバルカ人の「民族衣装」も、架空の国を演出するためか、ステレオタイプなモンゴルイメージではないデザインが選ばれている。そのひとつが「匈奴(フンヌ)デール」だ。そもそもモンゴルの伝統衣装デールといえば、いわゆるチャイナ・ドレス同様、首は立て襟、右衽(おくみ)、ボタンは右わきの下で留める構造になっている。 

伝統的な立て襟つきのデールを着た遊牧民たち(サブハン県、2017年、筆者撮影)

 前割れの衣装と異なり、馬に乗っても冷たい外気が前から入ってくることもない。乗馬に適した非常に機能的な衣装である。本作で主人公の乃木や野崎、駐バルカ共和国大使の西岡英子(檀れい)、バルカの外務大臣ワニズ(河内大和)らが着ていたのが、この通常型のデールである。この通常型のデールの立て襟は、清朝の満洲族の衣装に発するデザインである。

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