日曜劇場『VIVANT』(TBS系)が盛り上がっている。この作品の舞台となっている「バルカ共和国」は架空の国だ。その国が一体どの国をモデルにしているのか、ネットでは様々な推論がなされているが、「バルカ共和国」は、撮影地であるモンゴルの地理・文化・社会をモデルにしながらも、制作者がさまざまな改変を加えることで生み出されたと考えられる。わかりやすくいうと、「モンゴルに似せながらも、モンゴルではない国」——それがバルカ共和国だ。
というわけでこの記事では、モンゴル研究者の視点から、本作の舞台「バルカ共和国」がいかにして創造されたのか、推理していきたいと思う。筆者は、モンゴルで長年フィールドワークを行ってきた、文化人類学が専門のモンゴル研究者だ。おそらく本来のモンゴルの姿と比較することで、番組制作の秘密の一端に触れることができるのではないだろうか。(全2回の1回目/後編を読む)
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「バルカ共和国」の地図上にもモンゴルはあった
まずは、バルカ共和国の「地理」。本作の設定では、バルカはモンゴルとカザフスタンの間に位置するということになっている。作中に登場する地図と、Googleマップを比較してみよう。
モンゴル、カザフスタン、ロシアの3国の領土から成る「バルカ共和国」
そもそもこの地域は、ロシア連邦アルタイ共和国(北)、モンゴル国(東)、カザフスタン州(西)、中国・新疆ウイグル自治区(南)の4カ国がエックス状の国境線で隔てられた地域である。ちなみにモンゴルとカザフスタンは直接国境を接していないのも、この地域のポイントだ。モンゴルという国は、陸路では、ロシアか中国を経由せずに外国に出られない陸に封じられた国なのである。
ところが『VIVANT』の世界では、「バルカ共和国」と接している。そして、よく見ると、現実の世界よりモンゴル国とカザフスタン、ロシアの領土が少し小さくなっているではないか。実は、この3国から少しずつ、領土を「拝借」することで「バルカ共和国」は創られているのである。
本物の地図(Googleマップ)を見ていただきたい。地図の北東部(右上)には、大きな湖が描かれている。モンゴル最大の湖オブス湖(地図上ではウブス湖)である。この湖は、琵琶湖の5倍弱ほど広さを持つ巨大な塩湖で、世界遺産にも登録されている。VIVANT地図では、そこから少し西(左)へ行くと、バルカとの国境線となっている。そのバルカ領内の北東端にある円形の湖は、本来はモンゴル国オブス県に位置するウーレグ湖だ。