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意味は“悪魔の砂漠”…「アド砂漠」はどこにある?

 第2話で乃木憂助(堺雅人)や野崎守(阿部寛)、柚木薫(二階堂ふみ)らが、バルカ警察の追跡をかわすために命がけで横断したアド砂漠。砂丘がうねる「地獄の砂漠」をラクダで越える映像は圧巻だった。

 アドとは、モンゴル語で「悪魔」を意味する。悪魔の砂漠である。この砂漠は、バルカ共和国の南東部に広がっている、という設定だ。しかし実際にはこのあたりに砂漠はなく、3000~4000メートル級の山々が連なる。モンゴル・アルタイ山脈である。

ラクダを撫でて笑顔を見せる阿部寛(『VIVANT』公式SNSより)

 そのアド砂漠のロケ地となっているのは、ゴビ砂漠だ。実はゴビとは、固有の地名ではない。モンゴル語で「植物のまばらな礫漠地帯」のことを指す普通名詞である。ゴビ地域の年間降水量は130mm程度だ。この過酷な環境の中、遊牧民たちはラクダやヤギ、ヒツジを飼って暮らしている。そして世界一人口密度の低い国モンゴルの中でも、最も人がいない地域がゴビだ。ウムヌゴビ県で言えば、人口密度は0.4人。隣の家まで50km、なんてことも珍しくない。

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『VIVANT』の地図から判断するにアド砂漠は、モンゴル国境まで200kmほど続いている。しかし本物のゴビ砂漠は、絶望的なくらい広い。モンゴルと中国の国境に跨がって東西2500km、南北は1500kmに広がっており、総面積はおよそ130万平方キロメートル、日本の国土の3倍以上だ。広大無辺とは、まさにゴビ砂漠のためにあるような言葉だといえる。

ゴビ砂漠に位置するバヤンザグの「炎の崖」(モンゴル・ウムヌゴビ県、2009年、筆者撮影)

砂漠で餓死するしかなかった兵士たち

 事実、ゴビは多くの人々を飲み込んできた。時には数万の大軍すら行き倒れへと導く。歴史上、多くの中国王朝の軍勢は数において北方の騎馬遊牧民に圧倒的に勝っていた。しかし遊牧民の偽装撤退に騙され、果てしない砂漠に誘い込まれ大敗北を喫してきたのである。

 まず騎馬遊牧民は、負けたふりをして中国王朝の軍を奥地に誘導する。そのあと、少数の騎馬軍で足の遅い歩兵軍団の兵站部隊(食料などの供給部隊)を急襲し、水や食料を火矢で燃やす。あとは何十万人の兵力があろうと、砂漠で餓死するしかなかった。

 ドラマにおいても乃木らが、灼熱の太陽の下、うねるように延々と続く砂丘を彷徨う。時には砂嵐に巻き込まれ、行き倒れ寸前にまで追い詰められる。アド砂漠=ゴビ砂漠は、ドラム(富栄ドラム/声・林原めぐみ)が逃げ出すのもわかるくらい、恐ろしい地獄の砂漠だ。