日曜劇場『VIVANT』(TBS系)で、堺雅人が演じている主人公・乃木憂助の人生は波乱万丈である。幼い頃、バルカ共和国で家族と生き別れ、人身売買の末に乞食をさせられて……。日本に戻ると、今度はアメリカへ。コロンビア大学で学び、陸上自衛隊に入隊、訓練を積む。やがて秘密組織・別班の一員になり、日本を狙うテロリスト集団「テント」を阻止する任務につく。ところが、テントのリーダーが、生き別れた父、ノゴーン・ベキ(役所広司)で、乃木は、父会いたさのあまり別班を裏切る。そうやって潜入したテントで乃木が見たものは、テントと父の真の姿だった——。というのが第8話まで。かなりのハイカロリー設定である。
物語は、ベキがテロまでしてお金を稼ぎ購入した土地の使途に集約しかかっているようにも思える。日本を離れて40年来のベキの思いが昇華されていくのか。そのとき乃木はどうなるのか。ただ、ここまで煽ってきて、最後は父と子の心温まるヒューマンドラマでまとまるのもなあ。乃木にはまだまだ何かがあることを楽しませてほしい。なぜなら、堺雅人は一面的でない、“意外性”の魅力をもつ俳優だから。
穏やかな堺雅人に「違う面」が現れた時の衝撃
お人好しで、やや抜けたところもあるような乃木が、第4話で豹変したときは、「待ってました!」「それでこそ俺たちの堺雅人!」とでもいうようにSNSは沸きに沸いた。知力、体力、運動能力、すべてが抜群に高く、優秀な乃木は、日本を守るという強い使命感から、時に、他者を残酷に殺めることも厭わないような非情さも見せる。
見た目はニコニコしていて穏やかそうな堺雅人。だが、その笑顔はどこか秘密めいていて、ある瞬間、違う面が現れ、驚かされる。例えば、フランス語では「生き生きとした」という意味がある「VIVANT」は、ドラマでは「別班」の意味だったが、「ヴィヴァン」は「ヴィラン」=「悪役、敵役」をもじったようにも思える。乃木が最強のヴィランでも面白そうだ。
堺のその魅力を、テレビドラマで生かしたのが三谷幸喜の大河ドラマ『新選組!』(NHK、2004年)だった。新選組の人格者・山南敬助は「山南さん」と組の皆に慕われていたが、ある時、組を脱走。捕まって切腹して果てる。知性もあり剣術の腕もあり温厚だった山南の、組織が肥大化して変わっていくことに対して身をもって問いかけるような、身を引き裂かれるような生き方は、遊女に対する厳しさと優しさも相まって、多くの視聴者の胸を打ち、惜しまれた。