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大抜擢された大河ドラマを経て…ダークな一面が開花

『新選組!』で注目されてから4年後、大河ドラマ『篤姫』(NHK、2008年)では大河の主役(宮﨑あおい)の相手役・徳川家定役に大抜擢される。普段はうつけのように振る舞い、聡明な面を隠している家定は、裏の顔を持ってはいるもののダークな印象はなく、主人公・篤姫の最高の相談相手として、こんな夫がほしいと世の女性をうっとりさせた。だが、家定のその振る舞いには、将軍に生まれた苦悩がある。

 堺のダークさが色濃くなったのは、『JOKER ジョーカー 許されざる捜査官』(フジテレビ系、2010年)で演じた主人公。「仏の伊達さん」とあだ名がつくほど昼間は温厚。だが、夜は非情な仕置人みたいなキャラで、これは『新選組!』の山南さんのイメージをすこし踏襲したのではないかと思われるし、『VIVANT』の乃木は伊達さんに少し似ているような気がする。

 仏の伊達さんのダークさに、コメディ色を加えたのが『リーガルハイ』シリーズ(フジテレビ系、2012年・2013年)の古美門研介だ。法外な弁護料のために仕事をしている弁護士・古美門は世の中の欺瞞を暴きまくる。毒舌で悪魔的な人物・ダークヒーローは当たり役となり、それをステップにして堺雅人はさらに駆け上がる。

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新垣結衣演じる正義感の強い弁護士・黛真知子との“ゴールデンコンビ”が話題に(公式SNSより)

とてつもない熱量を発揮して大ヒットした『半沢直樹』

 さらなる飛躍のきっかけとなったのが、日曜劇場『半沢直樹』(TBS系、2013年・2020年)との出会いである。実直な銀行員が銀行の不正を暴いていく池井戸潤のベストセラーのテレビドラマ化は、『VIVANT』の原作、演出を担当している福澤克雄のダイナミックな演出と、敵役の凄みも合わさって、堺がとてつもない熱量を発揮し、「やられたらやり返す、倍返しだ」のセリフが流行語にもなり大ヒットした(※1)。

『半沢直樹』(TBS系、2020年)の最終回の視聴率は平均世帯視聴率で32.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した(公式HPより)

まるで羽生結弦や大谷翔平のような、莫大なエネルギー

 古美門研介や半沢直樹まで来ると、多面性や意外性の面白さは当然として、もうひとつの何かが堺雅人を駆動しているように感じる。人間の多面性を感じさせる個性というポテンシャル、それを増幅して親しみやすく表現するテクニカルな面だけではない、もうひとつの力――それは、一流アスリートのような莫大なエネルギーと限界を超える表現力である。

 言い換えれば、芝居のリアリティよりも、漫画やアニメみたいな荒唐無稽さだ。アニメや漫画みたいというと、一昔前は、軽視した表現に受け取られたかもしれないが、いまや「アニメや漫画みたい」は最大級の賛辞である。

 宮﨑駿のキャラの走り方やジャンプの仕方、エヴァンゲリオンで描写される筋肉のように動く凄み……等々、生身の人間がアニメや漫画でしかできないような超越した表現に肉薄することは、羽生結弦の4回転アクセルや、大谷翔平の投打二刀流、ウサイン・ボルトの超速、八村塁のバスケのような奇跡なのである。人間がこんなことできるのか? と思うような域に行くことは最高のエンタメ。そんな身体を使った表現をする俳優、それが堺雅人である。