理性と狂気の“二面性”がとてもうまい
『蛮幽鬼』『プロメア』を手がけた脚本家・中島かずきは「やっぱり堺君は、二面性、理性と狂気を演じてもらうと、とてもうまいと思うんですよ」(※2)と二面性を語り、それを理性と狂気に集約させている。
また、『新選組!』や『真田丸』を書いた三谷幸喜は、堺雅人の魅力を「矛盾」であると指摘している。三谷は「キネマ旬報」(キネマ旬報社)2008年11月下旬号で堺について「堺雅人という役者の最大の面白さは、その『矛盾』にあるように思うのです」「相反する二つの要素を同時に抱えた人物を演じる時、堺雅人という俳優は驚くほどの輝きを見せます」と書いた。今年8月、『日曜日の初耳学』(TBS系)に堺がゲストとして出演したときにも紹介されたこの三谷の見解には、堺本人も非常に満足し、自覚もしているようだった。
中島と三谷の話を足して考えるとわかりやすい。古美門研介や半沢直樹や乃木憂助など、堺雅人の演じる人物は、あまりにも揺らぎなく確たる信念を持っていて、それが強靭過ぎるあまり、時として対するものを破壊してしまう。それが攻撃性という狂気である。徹底した論理と激しい暴力はすぱっとふたつに切り分けられず、ひとりの人間のなかでとぐろを巻き、エネルギーを増幅させていく。
堺雅人の集大成のような『VIVANT』の主人公
『VIVANT』の乃木は、過去の堺雅人の集大成のようでもある。並んだ車の上をドタバタ走るのみならず、苦しみから生み出したもうひとりの自分F(堺が一人二役)と語り合ったり、いきなり豹変して同僚を脅したり、別班の同僚を射殺したり。一方、柚木薫(二階堂ふみ)との初々しい恋愛場面やベキとの親子愛などはあまりにも純粋である。
堺雅人とは、二律背反のもたらす強さと困難さをエンタメに昇華させ、全身を使って、人間の抱えるつじつまの合わないことこそをたまらなく愛おしく見せる俳優である。
※1 2013年、ユーキャン新語・流行語大賞では「倍返し」が年間大賞になった
※2 中島かずき著、藤津亮太構成・文『中島かずきと役者人』(KADOKAWA、2020年)より
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9月6日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および9月7日(木)発売の「週刊文春」では、「文春“別班”が本気で追った 『VIVANT』9つの謎」と題し、堺雅人や二階堂ふみ、阿部寛ら主要キャストの知られざる秘密など、7頁にわたって同作の大特集を掲載している。さらに「文春オンライン」でも、『VIVANT』に関する記事を多数配信する予定だ。