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「あの頃の人は服を脱がないから今のセックスとは…」脚本家・大石静が明かした“ほのぼのエロス”の中身〈大河ドラマ『光る君へ』〉

有働由美子のマイフェアパーソン

note

 大石 それも含めて演技力です。一人の人間を1年間演じきるには、よほど腕がある役者でないと視聴者が飽きてしまうんです。今回のキャスティングはプロデューサーとチーフ監督と私とで考えました。道長は何人かの候補で迷ったけど、3人とも「やっぱり柄本君だろう」と言って決まりました。

 有働 演技の上手い下手の違いって、何なのでしょうか?

 大石 たとえば人は驚いた時、絶対に息を吸います。でも芝居が出来ない人は呼吸が裏切っています。体の生理を裏切らないことが基本ですが、後は想像力や、激しい所まで自分を振り切れる勇気ですかね。楽な所で表層をなでるような芝居をしない人。柄本君はDNAレベルで役者家系なので、本能的に演技することが何かを知ってる気がします。

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 有働 お父様は柄本明さん、お母様は角替和枝さんですからね。

 大石 ご両親とも名優です。本人の演技を見ていると、本当に深く考えているなと感心します。彼に演技してもらって「私のセリフってこういう意味だったのね」と、腑に落ちたこともあるくらいです。

平安時代のセックスは・・・

 有働 大河ドラマの脚本は06年の『功名が辻』に続いて2回目ですが、最初は引き受けるかどうか、躊躇されていたそうですね。

大河ドラマの脚本は『功名が辻』に続き2作目 ©文藝春秋

 大石 だって、平安時代の大河ドラマなんて、誰が見るんだって思いません?

 有働 大河ドラマは合戦シーンがあってナンボだとよく聞きます。

 大石 制作発表会見の時、プロデューサーが「題材は紫式部で平安時代です」と言った途端、記者席がチーンと静まり返っちゃったくらいですから。そこで「ヤバい! キャッチーなことを言わなきゃ」と思って「『華麗なる一族』と『ゴッドファーザー』を足して3倍にしたくらいの権力闘争」と「セックス・アンド・バイオレンスを描きたい」と言ったら、これが独り歩きしてしまって(笑)。

 有働 この言葉があったから記者が前のめりで記事を書いてくれたわけで、NHKは大石さんに感謝しないといけませんね。実際、脚本にはセックス・アンド・バイオレンスがたくさん出てくるんですか?

 大石 平安貴族は血を見ると穢れると思っていたから、死刑も執行しません。人を殺すのは下々のやることだと。でも、毒を盛る、呪詛する、騙し合いで帝を引きずり下ろすといった、バイオレンスな権力争いはものすごくあるのです。一方、セックスの方は、一種のエンターテインメントだったのだろうなと感じます。

 有働 エンターテインメント?

 大石 大河はお子さんも観るから濡れ場は描きません。大体、あの頃の人は服を脱がないから、今のセックスとはまったく違ったらしいんですよ。

 有働 当時のセックスは、今とどう違ったのでしょうか。

 大石 まず真っ暗でしょう。だから髪の触り心地を感じたり、その人のために調合した香りを嗅いだりして、気持ちを高めていく。現代みたいに、顔で勝負しなくていいところがいいなと私は思うんですけど。

 有働 なんて率直な感想(笑)。

 大石 いま26話分書いていますが、映像で出てくるのはせいぜいキスシーンくらい。ただ、ほのぼのとしたエロスは、醸し出してゆきたいです。

 有働 それはどう出すんですか?

 大石 セリフですね。私が『セカンドバージン』というドラマを書いた時、やたら濡れ場が多いと言われたけど、実は映像としてはあまりない。その分、セリフがきわどいのです。「あの人、体位を変えないんです」と言ったりして。今回は夜8時ですからそこまでは書かないですけれども、ちょっとずつまぶしていますね。でも見せ場はそこだけではないですよ。

大石氏と有働氏の対談「『光る君へ』でほのぼのとしたエロスを醸し出したい」全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

「あの頃の人は服を脱がないから今のセックスとは…」脚本家・大石静が明かした“ほのぼのエロス”の中身〈大河ドラマ『光る君へ』〉

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