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“怪物”井上尚弥に試合で負けたボクサーが語る「井上選手の拳の重み」「敗北の先にある生き様」

『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』(森合正範 著)――ベストセラー解剖

2024/05/13
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『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』(森合正範 著)講談社

 4階級の世界王座に輝き、「日本ボクシング史上最高傑作」の呼び声も高いプロボクシングの井上尚弥選手。10代の頃からボクシングを愛しスポーツ記者になった著者は、そんな「怪物」を長年取材しながらも、その強さを十分に表現しきれない歯痒さを感じてきた。本書ではそこに、井上選手に試合で負けたボクサーへの取材で迫ろうと試みている。

 リングで対峙した者だけが語れるディテール。淡々とした筆致でも井上選手の拳の重み、技術の冴えが明瞭に伝わる。著者の人柄もあってか、苦い経験を振り返りながらも登場する選手たちの語りは穏やかだ。

 口さがない観客は時に敗者をかませ犬だったかのように評するが、そうではない。彼らも類まれな才能の持ち主であり、それを必死の努力で磨き上げ、あくまで勝つためにリングに上がってきた。そんな選手たちの試合前後の人生や、家族との関わりにもスポットを当て、ひとりの人間として描き出している点も魅力的だ。

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「井上選手と戦ったことが、引退した選手にとって人生の糧になり続け、現役の選手でも、井上選手との闘いから逃げなかったことが誇りに繋がっている。そうした敗北の先にある生き様を描いた部分が多くの読者に響いたように感じています。大概の人は、人生でずっと勝ち続けられるわけではないですからね」(担当編集者の鈴木崇之さん)

2023年10月発売。初版1万部。現在5刷4万1000部(電子含む)
“怪物”井上尚弥に試合で負けたボクサーが語る「井上選手の拳の重み」「敗北の先にある生き様」

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